JERAが、8月5日に愛知県武豊町の「武豊火力発電所5号機」の商業運転を開始しました。運転開始に先立つ7月14日には、構内の発電用のタービンや制御室などを報道陣に公開し、電力需給のひっ迫が騒がれるなかでの電力需給の安定化に向けた供給力として貢献できるとアピールしたようです。
しかし、電力の安定供給に貢献したとしても、日本の、武豊町の将来にとってはどうなのでしょうか。武豊火力発電所5号機(武豊5号機)の運転開始に対して問いたいのは以下3点です。
- バイオマスを17%混焼しても、廃止になった2~4号機の3基合計よりも、5号機1基から排出されるCO2が多いのに、なぜこれを「環境影響の低減」と言えるのか。
- 今大型石炭火力発電所の運転を開始して、2035年の電力部門の脱石炭化、2050年のネットゼロという国際的に合意された目標をどうやって達成するのか。
- 武豊町は「ゼロカーボンシティ宣言」を出しているが、これとどう整合するのか。
武豊5号機は、1972年に運転開始した2~4号機(計112.5万kW、2016年3月に廃止)の老朽化に伴うリプレースとして2015年2月に計画が公表されました。重油・原油を燃料とした2~4号機よりも環境への影響が少ないとして、「改善リプレース簡略アセス」が適用され、2018年4月に着工、今回の運転開始となりました。
老朽化した発電設備より大気汚染などの環境負荷は減りますが、二酸化炭素(CO2)排出量は増えると算出されています。JERAは、木質バイオマス燃料を混焼することにより、石炭の専焼に比べて、年間で90万トンのCO2が削減できるとしていますが、その点に注目して取り上げているメディアが多いことには疑問を投げかけずにはいられません。まず、武豊5号機の年間設備利用率を80%とした場合、年間二酸化炭素排出量は約569万トンになると予測されています。次に、削減効果を謳っている木質バイオマス燃料を混焼(発熱量比で約17%を混焼)させた場合、従来の専焼に比べて年間で約 90 万トン削減が可能となるに過ぎません。つまり、武豊5号機からは約479万トンのCO2が排出されることになります。2~4号機のCO2排出量は各93万トンとされていたので、3基合計の排出量よりも年間200万トン程度増加することになります。CO2排出量の観点から見れば、とても「改善」と言えるものではありません。
武豊5号機は、1基あたりの出力が国内最大級の石炭火力発電所です。運転を開始した以上、25年以上稼働することになると見込まれます。日本は、2030年のエネルギーミックスでは石炭を19%程度にし、2050年には火力発電から大気に排出されるCO2排出を実質ゼロにしていくという目標を掲げています。にも関わらず、現時点で既存の石炭火力発電所の廃炉計画(フェーズアウト)は明らかにされていません。具体的な削減計画もなしに、排出係数の大きな石炭火力発電所の、しかも大型発電所の新規運転を開始することは許容できるものではありません。
さらに、日本は6月のG7サミットの共同声明で、石炭火力の「段階的な廃止」に合意しています。武豊5号機は「超々臨界圧発電方式」という最新の技術で、欧米やアジア諸国に比べれば高い発電効率を実現しているとの主張もあるようですが、石炭火力であることには変わりありません。先進国は2035年までに電力部門の脱石炭を達成し、世界各国はCO2削減対策なしの石炭火力を2040年までに段階的に廃止していく必要があるとする国際エネルギー機関(IEA)の報告書のシナリオが世界的に参照されているなか、武豊火力5号機の運転開始は逆行しています。
最後に、武豊町が「ゼロカーボンシティ宣言」 を発表している自治体であることを述べておきます。武豊5号機の年間発電容量は、一般家庭240万世帯分の使用電力量に相当する約75億キロワット時と想定されています。この電力は中部電力を経由して販売されることになりますが、自治体は発電時に排出されるCO2をどのように処理するつもりなのでしょうか。武豊火力5号の運転は、武豊町の方針にも整合するとは言えません。
関連情報:
【プレスリリース】気温上昇を加速させる新規石炭火力「武豊5号」の運開に抗議する(2022年8月7日)(リンク)