山口宇部パワー株式会社が進めている石炭火力発電所「西沖の山発電所(仮称)」の環境アセスメント準備書に関する意見を2自治体(山陽小野田市、宇部市)が発表しました。
この計画は、大阪ガス、電源開発(J-power)、宇部興産が関わる同社が、合計120万kWという大規模な石炭火力発電所を2026年に運転することをめざすものです(当初は2023〜2025年運転開始予定としていましたが、計画が遅れています)。
今回発表された両自治体の市長意見は、大気汚染と温暖化を中心に事業者に対して追加的な説明や対策を求めています。とりわけ、温暖化においては、国内外で急速に石炭火力発電への批判が強まっていることを強調し、場合によっては事業そのものを見直す必要性にも言及しています。
「地球温暖化対策に逆行する」「大気汚染物質を現状より増加させる」
宇部市長意見では、石炭火力発電所が「温室効果ガスを大量に排出する」ため、「地球温暖化対策に逆行する」として厳しい意見が国内外で相次いでいることに触れた上で、「事業者からは依然として納得のいく説明がなされていない」と指摘しています。また、省エネ法ベンチマーク指標の目標を達成できないなら、この事業の見直しを検討するよう求めています。この点、山陽小野田市長意見では、ベンチマーク指標について「A指標について達成できる見込みであるが、B指標は現状では目標達成は困難な状況にある。」と指摘しています。石炭火力発電を多く所有する電源開発は、省エネ法の目標の達成が危ういため、この指摘は重要です。国の施策や事業者が掲げる施策等と照らし合わせ、事業者が行う対策について具体的な基準や目標、達成するための方策等を明確にすることを両市長は求めています。
また、この発電所の稼働に伴って硫黄酸化物、窒素酸化物、ばいじん、重金属等の微量物質が排出されることを問題視。事業者が環境対策をとったとしても、「大気汚染物質を現状より増加させることに変わりはない」と、両市長は環境悪化への懸念を表明しています。
2018年秋に開催された説明会では、事業者は、すでに運転中の古い石炭火力発電所よりも、この宇部の発電所の方が、汚染排出データの数値が悪いことを認めています。とりわけ、山陽小野田市長は、市域において二酸化硫黄、浮遊粒子状物質の将来寄与濃度が最も高くなる地点があるとされたことから、「本市にとっては大きな懸念材料である。」と言及しています。両市長意見は、周辺の大気環境に関する地元住民への影響や住民の健康や漁業への影響の懸念が、事業者に対して示されています。
環境影響評価の枠組みにとらわれず、説明を
宇部市長意見では「環境影響評価の枠組みにとらわれず、…適切な機会を十分確保して、誠意を持って分かりやすく丁寧に説明を」と求めています。これまで事業者が実施してきた環境影響評価の手続きに沿った説明だけでは、不十分だというのが今回のメッセージだといえるでしょう。大阪ガスと電源開発が宇部市に参入して主導するプロジェクトですから、なおさら誠実な姿勢で説明することが求められます。
山口宇部パワーは、市長意見を受けに、環境アセスメントにある最低限の説明をして終わりにするのではなく、市長意見で示された様々な指摘や懸念にいかに対応するのか(CO2排出削減対策、省エネ法ベンチマークの達成、大気汚染への対策など)を市や県、さらに住民らへ十分に説明を尽くす必要があります。
宇部市長意見をもとに、さらに厳しい知事意見を
2つの市長意見は、山口県知事へ送付がされました。環境保全の見地から意見を表明する地元では最後となる山口県知事は、山陽小野田市長、宇部市長意見をもとに、山口県民の健康と地球環境をまもるために、この計画を認めず、見直しを求める厳しい意見を出すことが求められます。また、環境大臣意見も控えており、山口県知事がどのような意見を表明するのか注目です。
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