【ニュース】日本のアンモニア政策を本当に脱炭素になるのか


アンモニア

1月10日、世界のエネルギー関連のニュースを掲載する再エネに関するポータルサイトRechargeに「‘Crazy, wasteful greenwash’: Japan to spend $242m on mixing hydrogen-derived ammonia with coal at power plants」と題する記事が掲載されました。これは、日本政府が2029年までに石炭火力発電所で少なくとも50%のアンモニアを混焼させることを目指す2つの実証プロジェクトに279億円(2億4,200万ドル)を投入すると発表したことに対するものです。石炭火力発電所で混焼させるためのアンモニアを水素から生成するのはグリーンウォッシュであり、無駄金になる馬鹿げた行為だーと指摘しています。

2つの実証プロジェクト

1)アンモニア高混焼微粉炭バーナおよびアンモニア専焼バーナの開発と実装

日本最大級の発電事業者JERAとIHIが、国立研究開発法人「新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」の助成を受け、2024年までにアンモニア高混焼バーナを開発し、2028年度までに実機で50%以上のアンモニア混焼を開始することを目指すプロジェクトです。

2)アンモニア混焼率50%以上の混焼技術の確立と商業運転実施の可否判断

これは、JERAと三菱重工業が石炭ボイラに適したアンモニア専焼バーナを開発し、実機で実証運転することを目指すものです。実証実験の結果を踏まえ、商業運転の可否を判断します。

Rechargeは、JERAがこの2つのプロジェクトで利用するアンモニアを生成するのに使う水素の色(グレー/ブルー/グリーン)について言及していないと指摘しています。つまり、水素の原料に化石燃料を使用している(グレー)か、その場合に排出されるCO2を地中に埋めるなど排出されない対策がなされている(ブルー)か、原料にCO2を排出しない水を再エネで電気分解している(グリーン)かということです。

日本政府のアンモニア政策

日本政府は、第6次エネルギー基本計画において2050年までに電源構成のうち水素・アンモニア火力を10%とすることを示しました。アンモニアを“脱炭素化に貢献する次世代エネルギー”として着目し、COP26では岸田首相がアジアで燃料をアンモニアに切り替える事業などに1億ドル(約115億円)を投じる考えを示していました。

さらに、アンモニアなどを混焼させて火力発電をゼロエミッション化でアジアの排出削減にも貢献していくと表明し、1月の萩生田経済産業大臣の東南アジア訪問では、脱炭素に向けてアンモニアや水素を活用する技術協力を進めると表明しました。萩生田大臣は、10日のインドネシアとのオンラインイベントで「2030年までにアンモニアのみを燃焼させる技術の実現をめざす」と発言していますが、実証実験を進める当のJERAのロードマップ「ゼロエミッション2050」ですら、CO2排出ゼロへの挑戦を2050年、専焼化の開始を2040年代としていることを踏まえれば、かなりの勇み足であることが見てとれます。

アンモニアによる脱炭素は理解が得られるのか

アンモニアは、化学工業や肥料として使われていますが、燃料としての開発が急速に進んでいます。圧力を加えれば常温管理が可能なので、水素よりも取り扱いが容易ではありますが、アンモニアによる脱炭素化について世界からの理解が得られているわけではありません。

エネルギー転換における水素の役割に関して証拠に基づいた見解を発信する科学者やエンジニアの団体であるHydrogen Science Coalition(水素科学連合)の共同創立者であるポール・マーティン氏は、LinkedInの投稿で、石炭火力発電所にアンモニアを混焼させるプロジェクトを「無駄なクリーンウォッシュ」と切り捨てています。水素を燃料として使用することに関する誇大宣伝に警鐘を鳴らすとともに、アンモニアによる発電コストは競合他社が経済活動に使用しているエネルギー1ジュールあたりのコストの少なくとも5倍になるだろうとも書いています。

アンモニアの利用は本当に脱炭素なのか

アンモニア自体は水素と窒素の化合物で炭素を含まないため、燃焼してもCO2が出ませんが、製造過程で排出されるCO2を回収したり、CO2を出さずに大量生産する製造方法は確立していません。現在、主に肥料や化学薬品を生産するのに使用されているアンモニアは、化石燃料に由来するグレー水素と、空気中の窒素を水素と直接反応させるエネルギー集約的なハーバー・ボッシュ法で合成された窒素を組み合わせて生産されており、発電用に大量のアンモニアが必要となった際に、どのように供給するかは課題です。

Rechargeによると、実証プロジェクトの1)碧南石炭火力発電所でのアンモニア混焼において、混焼率を50%にする際に必要なアンモニアの量は、石炭火力発電所の平均設備利用率を53.5%として算出すると年間120万トンとなり、これは現在の世界の年間供給量のほぼ0.7%に相当します。

さらに、Rechargeの計算によれば、1トンのグリーンアンモニアを生成するには14.38MWhのエネルギーを必要*とするのに、この量のアンモニアを燃焼して得られる電力量は5.16 MWh。しかも、石炭火力発電所で大量のアンモニアを使用して作られる電力量は1.96 MWhにまで低下する(蒸気タービン発電機の効率38%)となっています。電気を作るのにアンモニアを利用することは非常に非効率なのです。

*グリーンアンモニア1トンを生成するにあたり必要なグリーン水素を製造するために8.85MWhの再生可能エネルギーを必要とし、電力だけでハーバー・ボッシュ法で窒素を生成するために5.53MWhが必要となるので、この合計で14.38MWhと計算しています。

アンモニアを生成する非効率性、生成時のCO2排出の問題だけでなく、燃料のほとんどを輸入に頼っている日本が石炭火力への20%アンモニア混焼を実現しようとすると、現在の世界の貿易量に匹敵する量が必要になるとの試算もあります。JERAを始め、様々な企業がアンモニアの供給に動き出していますが、燃料を国外に頼ることからは脱却できません。

国外にエネルギーを頼ることにつながる技術開発に膨大な資金をつぎ込むのであれば、国内の再生可能エネルギーの拡大を検討し、いかに電力需要をまかなうための再エネを確保していくのか、早急に石炭火力をフェーズアウトさせるロードマップを策定していかなければ、日本だけが世界から取り残されていくことになりかねません。