神戸製鋼が神戸市灘区で計画を進めてきた石炭火力発電所をめぐって2年以上続いてきた行政訴訟が、2021年1月20日に大阪地裁(森鍵一裁判長)により結審を迎えました。
神戸石炭行政訴訟の概要と問題
この訴訟は、神戸製鋼所内に石炭火力発電所を増設する計画において、環境アセスメントの手続きに違法性があるにもかかわらず建設を認めた国の責任を問うとして、周辺住民ら12人が計画の確定通知を取り消すように求めた行政訴訟です。
本計画は、2014年12月から始まった環境アセスメントを経て、2018年5月22日に経済産業大臣から確定通知が出され、同年10月に神戸製鋼が建設工事を開始しました。本計画に対し、原告・弁護団が大気汚染および気候変動による生命・健康への影響の調査、予測、評価が適正になされていないと主張している点には以下があげられます。
● 年間1,371万t-CO2にも及ぶCO2排出量
計画の3号機は2021年、4号機は2022年の稼働開始が予定されています。既設の石炭火力発電所1-2号機(SC:超臨界圧)から既に年間679万t-CO2の二酸化炭素(CO2)が排出されているところに、3-4号機(USC:超々臨界圧)からの年間692万t-CO2の排出が加われば、合計排出量は1,371万t-CO2に及びます。神戸市全域でのCO2間接排出量が年間809万t-CO2ですので、神戸製鋼の石炭火力発電所だけでこれを上回る排出量を毎年排出し続けることになります。新規の石炭火力を建設し排出量を増やすことは、パリ協定に反し、脱炭素の時代に逆行することはもちろん、2020年10月に菅首相が表明した2050年実質排出ゼロ目標(ゼロ・エミッション)にも整合しません。
● 神戸の大気汚染悪化への危惧
神戸の石炭計画の周辺地域は、大気汚染の公害指定地域です。戦後の経済発展の中で、大気汚染による健康被害が大きな問題となり、現在もさまざまな環境改善対策が取られています。にもかかわらず、複数年度で見たときのPM2.5の環境基準の達成状況は必ずしも良いとは言えず、NOx(窒素酸化物)の大気汚染濃度が環境基準の下限値を超過する地域もあります。新たな大規模石炭火力発電所を建設することで大気汚染がひどくなることは避けるべきです。
● 石炭火力発電所建設における環境アセスメントの位置づけと国の判断責任
現在、日本では、石炭火力発電所を建設する際に、国の設置許可申請手続きが必要とされていません。環境影響評価法とその特則を定めた電気事業法に基づき、事前に事業者が環境影響を調査・予測・評価し、最終段階の「評価書」に対して経済産業大臣が「確定通知」を出しさえすれば建設工事を始めることができます。しかし国は、東京電力福島第一原発事故後、天然ガスと比べて2倍ものCO2を排出する石炭火力発電所の建設を推進するため、環境アセスメントの手続きを省略することを容認し、国内各地で多数の石炭火力発電所の建設計画を進めてきました。2021年1月時点で国内には稼働中の石炭火力発電所が159基、計画中・建設中のものが16基もあります。気候変動の危機感が高まるなか、石炭火力発電所の建設を推進し続けた国の判断は「適正に環境に配慮した」と言えるのでしょうか。
問われる司法の役割
石炭火力発電所の新設計画に対しては、日本各地で地域住民から反対の声があがっています。これまでに、釧路、仙台、千葉(市原、蘇我、袖ヶ浦)、横須賀、神戸で住民団体が建設反対運動を展開してきました。神戸地裁でも、周辺住民らが神鋼など3社に対し建設や稼働の差し止めなどを求める訴えを起こし、裁判が続いています。
気候変動は、科学や政治・政策の問題であるとともに、生命・健康、生活基盤を脅かす人権侵害の問題ととらえられています。気候危機が深刻化している今日、気候変動対策における司法の役割が世界中で問われています。
この裁判の判決は3月15日。本計画における国の責任を問う行政訴訟に裁判所がどのような判決を下すか注目です。
参考リンク:地域の活動 神戸