【ニュース】石炭採掘の気候への影響をめぐるオーストラリアの判決


2026年10月7日、オーストラリアの高等裁判所が、石炭鉱山の開発許可を与える際には、採掘時だけでなく輸出後の温室効果ガス(GHG)の排出も考慮すべきとの判決を出しました。産炭国オーストラリアの高等裁判所が石炭鉱山の拡張計画を差し止めた本判決は、今後の同様の訴訟における先例になる可能性があると見られています。

マウント・プレザント炭鉱開発計画

この判決の対象となったのは、オーストラリア東部のニューサウスウェールズ(NSW)州でMach Energy Australia社が開発しているマウント・プレザント(Mount Pleasant)炭鉱。実はこの炭鉱、日本と無縁ではありません。この炭鉱の開発・運営は、2018年にMach Energy社とJCDA(日本の石炭資源開発会社*の現地法人)が設立した合弁会社 Mount Pleasant Joint Ventureが手掛けています。JCDAの出資比率は5%です。

*石炭資源開発会社(Japan Coal Development Co.,Ltd.)とは、日本の主要電力会社などの出資により1980年1月に設立された企業で、発電用炭の安定供給を目的に、海外における石炭資源の調査、炭鉱、開発ならびに販売を担っている。株主として日本の大手電力企業9社が名を連ねている。

マウント・プレザント炭鉱は、2018年12月に火力発電所向けの一般炭の供給を開始。2026年まで年間最大で1,050万トン(Mtpa)を生産する許可を取得していましたが、2022年に年間生産力を2,100万トンに倍増させ、操業を2048年まで22年間延長する拡張計画を提出し、NSW州政府の認可を取得していました。

◆Mount Pleasant Optimisation(大規模な拡張計画)
既存および計画中のインフラを活用し、より深層を採掘することで操業期間を2048年12月22日まで延長するとともに、粗鉱(ROM)年間生産量を最大2,100万トンに増量し、うち年間最大1,700万トンの製品炭を生産し、国内および国外の顧客に提供する計画(2022年9月にNSW州政府の認可取得)

◆Modification 8(既存鉱区の変更計画)
同炭鉱の既存鉱区(露天採掘)におけるROM年間生産量を1,050万トンから1,250万トンへ増量し、操業期間を2026年12月22日から2032年末まで延長する計画(2026年8月にNSW州政府の認可取得)

住民による提訴

住民や農家で構成される地域団体が、NSW州の独立審査機関がMach Energyの拡張計画を承認したことに対し、2022年11月に異議を申し立て、提訴しました。この訴訟の焦点となったのは、NSW州の独立審査機関が同炭鉱から生産される石炭関連の総排出量8億7,000万トンのうち98%を占める輸出後の排出にあたる「スコープ3」を規制対象と判断して計画を承認したことの適法性でした。独立審査機関は、直接排出量(スコープ1)と間接排出量(スコープ2)を規制対象としていましたが、輸出分(下流での石炭燃焼も含む)排出量(スコープ3)を規制対象外と判断していたのです。

争点と高等裁判所の判断

争点となったのは3つです。
まず、環境法(EPA Act)の第4.15条 (1) (b)項は許可権限機関に対して「当該開発が及ぼす可能性のある重大な影響」を考慮することを求めていますが、(影響を及ぼす)「可能性のある」とは具体的に何を示すのか、そして規定の適用上、因果関係の連鎖がどこまで及ぶか。二つ目は、独立審査機関が環境法第4.15条 (1) (a) (i)項の要件を考慮し、温室効果ガスの排出を可能な限り最小限に抑えることを確保することを目的とした条件を付して承認を行ったかどうか。三つ目は、気候変動の影響が開発が行われる地域における環境影響となり得るか、というものでした。

2026年10月7日、高等裁判所は「鉱山の全生産量によるGHG排出量の98%は輸出によるスコープ3排出量で占められるのに、NSW州の独立審査委は石炭の輸出に伴う海外発生の排出量への対応を検討しなかった」として、委員会の判断を却下し、訴訟を提起した住民団体の判断を支持しました。また、各国には気候変動を抑制する法的責任があると判断している国際司法裁判所(ICJ)をはじめとする国際裁判所による最近の勧告的意見にも言及しています。

今回の判決を受け、Mach Energy社は規制当局や政府と実務上の影響を検討していくとしていますが、同炭鉱の操業は延長されず、今年末に生産を停止すると見込まれています。

日本との関係

合弁会社の設立に日本の石炭資源開発会社(JCD)が関与していることを冒頭に述べましたが、今回の訴訟の対象となった拡張計画(Mount Pleasant Optimisation)には、貿易国であるインドネシアと日本から約20億豪ドル(約2,200億円)の対外投資が行われているとの指摘もあります。マウント・プレザント炭鉱の石炭は、JCDAを通じて日本にも輸入されています。

今後への影響

オーストラリアの高等裁判所が石炭鉱山の拡張計画を差し止めたこの判決により、NSW州の炭鉱が増産を前提とした計画の認可を得ることが難しくなると予想され、今後の化石燃料関連の生産、輸出用炭鉱ライセンスの更新、さらにオーストラリアからの石炭輸入にも影響が及ぶことも考えられます。
今後、同様の訴訟において、国外(輸出先)での石炭消費(燃焼を含む)にともなう排出影響の評価が義務付けられた今回の先例が、どのような影響を広げていくかに注目です。

関連情報

Environmental Justice Australia, Climate change in the High Court
Climate Litigation Database :
Denman Aberdeen Muswellbrook Scone Healthy Environment Group Inc (DAMSHEG) v MACH Energy Australia Pty Ltd
Climate in the Courts, Australia’s High Court Invalidates Coal Mine Expansion On Climate Grounds

補足情報

Equity Generation Lawyers, Melbourne Climate Futures amicus curiae | MACH Energy Australia Pty Ltd v Denman Aberdeen Muswellbrook Scone Healthy Environment Group Inc & Anor