【ニュース】クリーン・コール・デー国際会議は石炭回帰を正当化


2026年9月3日から4日にかけ、一般財団法人カーボンフロンティア機構(JCOAL)主催の「第35回クリーン・コール・デー国際会議(2026)」および「資源の安定供給と脱炭素化シンポジウム2026」が都内で開催されました。

会議の公式テーマには「CCUS等による現実的脱炭素化への努力」「石炭のエネルギー安定供給への貢献」が掲げられました。しかし実際のセッションでは、中東・ホルムズ情勢の緊張やAI普及に伴う電力需要増を背景に、石炭火力の稼働継続や炭鉱開発への注力を肯定・推奨する発言が相次ぎました。気候危機の深刻化やパリ協定の1.5℃目標に向けた取り組みよりも、エネルギー安全保障を理由とした「石炭の復権」を訴える論調が前面に出る2日間となりました。

1. 脱炭素を「平時の美辞麗句」とする石炭回帰の主張

今回の会議の論調を象徴したのが、2日目の総括セッションに登壇した堀井伸浩・九州大学准教授の発言です。堀井氏は、初日に米国エネルギー省からの登壇者が掲げたスローガン「Coal is Back(石炭の復権)」について、「パンチがあり、会議全体の基調を決めてくれた」と評価しました。

さらに堀井氏は、「脱炭素というのは平時にもてはやされる美辞麗句」「エネルギー安定供給は影に隠れてきた」と述べた上で、「いざ危機が生じた際に社会を救ったのは石炭業界の関係者だ。今の追い風の中で、石炭の重要性を力強く訴えかけるべきだ」と主張しました。世界各地で激甚化する気候災害や、国際社会が合意した温室効果ガス削減目標が存在する中で、気候変動対策を「平時の美辞麗句」と位置づけ、地政学的リスクを機に石炭利用の拡大を促す姿勢が示されました。

2. 日本政府・公的機関による「フェーズアウト条件緩和」への言及

日本政府および公的機関の関係者からも、脱炭素目標の後退を示唆する発言が見られました。JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)の髙原一郎理事長は、2日目の共催辞において、中東情勢による化石燃料の供給不安に触れ、「日本でも石炭火力発電所のフェーズアウトの条件緩和を通じて電力供給の安定に配慮している」と発言しました。また同日の基調講演に登壇したJOGMECの久保田博志理事も、「非効率石炭火力の稼働を1年に限って伸ばす政策が出ている」と国内の対応を説明しました。

G7において合意された「2035年までの排出削減対策が講じられていない既存石炭火力の段階的廃止」との整合性が問われる中で、公的機関トップからフェーズアウト要件の緩和が明言された形です。

アカデミア側からも同様の論理展開が見られました。東京科学大学の柏木孝夫名誉教授は、天然ガス(LNG)の国内備蓄が約2週間分にとどまるのに対し、石炭は常温で長期備蓄が可能な点を強調。「脱炭素の観点からは石炭が最悪とされてきたが、エネルギー安保の観点からは石炭が最適である」「石炭は実効性の高いエネルギーセキュリティシステム」と述べ、排出原単位が最も高い石炭を、備蓄性を根拠に再評価する姿勢を示しました。

3. 米国における規制緩和と先住民族保留地・保護区での炭鉱開発

米国のトランプ政権下における化石燃料推進の論調も、本会議の論調に大きな影響を与えました。米国エネルギー省(DOE)のサラ・フォーブス氏は、「エネルギーを引き算(削減)するのではなく足し算(追加)する」と主張。2025年4月の大統領令「美しい石炭(Beautiful Coal)」に基づき、米国国防生産法(Defense Production Act)から石炭火力発電所の延命・増強や新規石炭関連施設の建出、輸出インフラ整備の後押しに予算を充当していることや、環境訴訟でとん挫していたカリフォルニア州の石炭輸出ターミナルに対し、連邦政府が7,500万ドルの公的資金を提供して救済した実績を報告しました。

さらに米国内務省のウェンディ・ハッチンソン氏は、環境影響評価の審査期間を大幅に短縮する規制合理化を推進していると説明。その実例として、先住民族ナバホ族の保留地において「東京の電力消費量を約7年間賄える量(約5億3,000万トン)」の採掘許可を新たに承認したことを紹介しました。またユタ州鉱業協会からは、これまで30年間自然保護区(ナショナル・モニュメント)として開発が制限されていた地域について、指定区域の縮小により石炭開発が可能になることへの期待が語られました。環境規制の緩和や保護地域の縮小を通じて、石炭生産の長期確保が進められている実態が示されています。

4. 「見せかけの脱炭素技術」とレアアース抽出による延命工作

2日目の国際会議では「脱炭素技術」のアピールも行われていましたが、その多くは石炭火力設備の長期維持を前提としたものでした。

  • BECCS(バイオマス混焼+CCS)による設備の維持:中国電力の高倉秀和執行役員は、BECCSやバイオマス混焼を「有望なカーボンマイナステクノロジー」と位置づけ、既存の石炭ガス化設備をフル活用する方針を表明しました。しかし、バイオマスを50%混焼しても残りの50%は石炭を燃やし続けるため、実質的な「脱炭素」策とは言えません。
  • 限定的な混焼比率:ASEANエネルギーセンター(ACE)の発表では、東南アジアの石炭火力の稼働年数はまだ若く、「今後20年以上活用できる資産」であることが強調されました。また、東南アジアでもバイオマス混焼による排出削減が測られていますが、バイオマス混焼率は足元でわずか1%程度にとどまり、99%が石炭のままとなります。わずかばかりの燃焼によって石炭火力を温存する構図が浮き彫りとなりました。
  • 石炭灰からのレアアース回収:ワイオミング大学の研究者やJCOALの塚本修理事長は、石炭灰(フライアッシュ)から重要鉱物(レアアース)を抽出する技術を取り上げ、石炭火力の経済的コストを相殺できると主張しました。本来発生そのものを止めるべき有害廃棄物を「戦略資源の供給源」としてリブランディングし、火力発電の継続を正当化する論理と言えます。

閉会辞において、JCOALの塚本理事長はこれらを指して「一時期のグリーンウォッシュから、より現実的なアプローチに移行しつつある」と語りました。しかし、排出削減の実効性が十分に確立されていない混焼や副産物利用を根拠に石炭火力を延命させるアプローチは、国際的な脱炭素基準に照らせば、それ自体が「グリーンウォッシュ」と評価されかねない矛盾を抱えています。

5. ESG・ダイベストメントへの反発

民間金融機関による石炭投資からの撤退(ダイベストメント)の動きに対しても、強い懸念と批判が表明されました。

堀井氏は、民間金融機関の投資撤退を「資金面からの締め上げ」と表現し、JOGMECによる海外炭鉱探査や権益確保などの公的支援を高く評価しました。その上で、脱炭素基準に沿って投融資を制限する金融機関に対し、「来年度のクリーン・コール・デーに呼んで『ちょっとどうなの』と問いただすべきだ」と発言しました。脱炭素へ向けた国際金融市場のルール形成に対し、石炭産業側の立場から方針転換を迫る姿勢を示した形です。

まとめ:国際公約と乖離する「エネルギー安保」偏重の議論

2日間の会議を通じて示されたのは、地政学リスクや電力需要増を契機として、石炭利用の継続や上流開発の推進を「現実路線」として正当化する日米およびアジア関係者の論調でした。

しかし、再生可能エネルギーの導入コストが世界的に低下し、迅速な電源確保の現実的な選択肢となる中で、未確立な技術や部分的な混焼に依存して石炭インフラを固定化することは、長期的な二酸化炭素排出の固定化(カーボン・ロックイン)や座礁資産化のリスクを高めます。

エネルギー安全保障の確保を理由に、国際合意である石炭火力の段階的廃止や新規開発停止の原則を棚上げにする姿勢は、国際的な気候変動対策の流れと著しく乖離しており、その妥当性と政策的リスクが厳しく問われることになります。

参考

JBC:【ニュース】脱石炭への日本と新興国の温度差が浮き彫りに:クリーン・コール・デー国際会議(2025年記事)