【レポート】IRENA、再エネ統計報告書 – 2024年も再エネのコストは化石燃料より優位に


2025年7月22日、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)が、報告書「再生可能エネルギー発電コスト 2024(原題:Renewable Power Generation Costs in 2024)」を発表しました。この報告書は、再生可能エネルギー(再エネ)の発電コストの変化を分析し、世界の再エネの現状、動向、さらに将来予測を詳細に説明したものです。

本報告書は、2000年以降の再エネの導入拡大が、2024年時点の世界の電力部門の燃料コストを4670億米ドル削減させているとの分析を踏まえ、再エネの発電コストが石炭や天然ガス等の化石燃料発電よりも安価となっており、最もコスト競争力のある電源であるとの分析を示しています。さらに、再エネのコストに関するIRENAのデータと最近の電力部門の動向分析を組み合わせた結果からは、再エネのコスト競争力が高まっていることに加え、再エネが気候目標の達成において中心的役割を担っていることが改めて確認できます。

以下に本報告書の要約を書き出しておきます。

再エネは、過去最高水準で拡大

  • 2024年に世界中で増加した再エネ発電容量は過去最高の582ギガワット(GW)に達し、2023年の増加量と比較すると19.8%増を記録。2000年の記録開始以来、最も増加率が大きくなりました。増加を牽引したのは発電容量増加分のうち77.8%を占める太陽光発電(PV)で、そのあとに風力発電(19.6%)が続いています。
  • 再エネの導入が進むことにより、化石燃料による発電が必要となるのは、大量に電力が必要となるピーク時や、再エネだけでは不足する場合の需要(残余需要)への対応となり、火力発電所の利用や変動の激しい燃料市場への依存度は低下することになります。2024年までに、太陽光と風力は世界で設置されている発電容量の46.4%を占めるに至っており、中国、米国、EUといった主要な国々の市場では石炭と天然ガスからの大幅な移行が進み、化石燃料の燃焼にともなう温室効果ガス排出量を削減しています。
  • 欧州連合(EU)では、2024年に太陽光による発電量が石炭火力を初めて上回り、クリーンエネルギー全体が総発電量の2/3を超える割合を占めました。米国では、2018年から2023年までの間、太陽光発電と風力発電の合計発電量が年平均12.3%のペースで増加した一方、石炭火力発電は年平均10.2%のペースで減少しました。こうした傾向は、支援的な政策、技術コストの低下、電化の進行によって実現した化石燃料発電からの構造的な転換を示すものです。

*残余需要(residual load):総電力需要(正味需要 net load)から太陽光発電や風力発電などの再エネ(変動型電源)の出力を差し引いたもの

最も安価な化石燃料よりも大幅に低い再エネの価格

  • 再エネは、新たな電力供給源として最もコスト競争力のある選択肢であり続けています。均等化発電原価(LCOE)**で見れば、2024年に商業運転を開始した新たな再エネ発電プロジェクトの91%が、化石燃料発電よりもコスト効率が優れていました。

**LCOE(Levelised Cost of Electricity):
発電設備の耐用年数における平均的な発電量あたりのコストであり、電源の経済性評価指標として広く用いられている)

Infographic: Renewable Power Generation Costs in 2024より
  • 2010年から2024年にかけて、主要な再エネ技術の総設置コスト(TIC)は急激に減少しました。比較的価格の安定している洋上風力と16%上昇したバイオマスを除き、再エネの総設置コストは2023年から2024年の間に10%以上減少しています。
  • 2024年に、新規に建設された商業ベースの太陽光発電の世界的な加重平均LCOEは、最も低コストな化石燃料発電と比較して41%安く、陸上風力発電の加重平均LCOEは53%安くなっていました。ただし、バイオエネルギーのLCOEだけは、原料価格と物流コストの変動により、2024年に13%増加しました。
  • 2024年、再エネの拡大により、化石燃料コストの費用は4,670億米ドル減少し、エネルギー安全保障の強化、および経済回復力の向上、長期的に手頃な価格で電力を供給することに貢献しました。この額には、日本が化石燃料の購入に支払わずにすんだコスト、170億米ドルも含まれています。世界的に見れば、新規の陸上風力プロジェクトが、再エネの中でも最も安価な電源となっており、次に新規の太陽光発電(PV)と新規の水力発電が続きます。
  • 再エネの価値は、LCOEの優位性に留まらず、長期的なエネルギー安全保障、公衆衛生、環境の持続可能性を含む幅広い領域におよびます。再エネの拡大は、発電コストの低減に加え、化石燃料の採掘、輸送、およびバックアップ(発電)設備に関する高額なインフラの必要性を大幅に減らし、国際的な燃料市場への依存度を抑えるとともに、エネルギーシステムのレジリエンス(回復力)を向上させることにつながります。

将来も再エネは最も安価なエネルギーであり続ける

  • 今後、再エネの総設置コスト(TIC)は、習熟曲線と規模の経済が継続的に効率の向上を促進することで、さらに低下すると予想されており、アジアでは、太陽光発電と陸上風力発電の両技術において、明確なコスト優位性が維持されると見込まれています。

図S1. 再エネのLCOEの変化(価格)推移(2010~2024年)

出典:Renewable Power Generation Costs in 2024(P16)
  • 気候目標を達成するため、再エネの発電容量は今後数年間で増加すると予想されており、バッテリー貯蔵、異なる複数の再エネや蓄電池を組み合わせた「ハイブリッド発電システム」、デジタル化は、エネルギー転換と変動性再エネ(太陽光発電と風力発電)の導入を可能にするための重要な要素となるでしょう。
  • 2010年から2024年の間に、再エネの変動性を補う大規模なバッテリーエネルギー貯蔵 システム(BESS)の総設置コストは、製造規模の拡大、材料の改善、生産技術の最適化によって93%減少しています。太陽光発電や風力発電といった再エネは気象条件によって出力が大きく変動しますが、再エネと大容量の蓄電池(エネルギー貯蔵設備)を組み合わせたハイブリッド型のシステムは、多くの市場で標準になりつつあり、出力の平滑化、設備利用率の改善に役だっています。
  • デジタル技術(予測メンテナンス、リアルタイム性能モニタリング、AIを活用した資産管理など)は、再エネの運用効率を向上させ、特に太陽光発電と陸上風力発電の運用や維持コストの削減と耐用年数の延長の実現に役だっています。

再エネが成長するにあたっての課題

  • 再エネの発電容量の増加は、発電における再エネの割合を増加させる世界的な動きが加速していることを反映しています。しかし、現在の導入水準は、COP28で掲げられた「2030年までに世界全体で再エネによる発電容量を3倍に増やす」という目標には到達できていません。
  • 再エネの長期的なコストの削減が期待される一方で、新たな地政学的リスク―特に再エネ設備の部品や材料の供給制約や貿易関税、中国の製造部門の動向―が短期的なコスト上昇を引き起こす可能性があります。
  • 資金調達コストは、再エネ事業の実現可能性を左右する主要な要因であり、資本コストは収益の確実性、資本構造、さらにはマクロ経済状況といった要因により左右されるものです。
  • 発電設備ごとの太陽光発電と風力発電のコストは継続的に下がっている一方で、再エネの発展を阻んでいるのは送電網による制約です。世界中で多くの風力発電や太陽光発電プロジェクトが、ボトルネックとなっている送電網接続の問題で遅延している上、主要な部品の調達リードタイムの長期化がさらにプロジェクトのスケジュールに影響をおよぼしています。プロジェクトの遅延は、蓄電、出力制御、送電インフラにかかる費用を含めた電力の安定供給を維持するために必要となる追加費用である統合コスト(integration cost)の増加を招くことになります。一方で、再エネの拡大をきっかけに、電力関連資産への投資が送電網の柔軟性を高め、再エネ以外の発電設備も含めた電力システム全体の利益をもたらしています。

再エネ価格の低廉化は、継続的な成長に支えられています。そして成長が続いていることは、気候変動対策として必要に迫られているというだけでなく、再エネが経済的に妥当で容易に導入できることが本報告書には明確に示されています。それとともに、再エネ事業への投資を促していくには、資金調達のリスクを軽減し、安定的な収益が見込めるような仕組みが不可欠であるとも指摘しています。

最後に、この報告書の発表と同日、アントニオ・グテーレス国連事務総長が特別演説において、IRENAの報告書に言及しました。化石燃料から再エネへの公正な移行が不可欠である理由を説明し、「私たちは新たな時代の扉を開こうとしています。化石燃料は限界にきています。クリーンエネルギー時代の幕が開こうとしているのは資金の流れを見れば明らかであす。」と、再エネへの移行が人々にとって安全なエネルギーへの道となることを強調しました。こちらも参照ください。(演説の動画と報告書「A Moment of Opportunity」へのリンクはこちら

掲載:Renewable Power Generation Costs in 2024
IRENA News Article
Report download Link (PDF)
Media Briefing(PDF

参考:再エネに関するIENAの報告書「Renewable Capacity Statistics 2025(Link)」

作成・発行:国際再生可能エネルギー機関(IRENA)
発行:2025年7月22日