※ この記事は、気候ネットワークブログに掲載された寄稿文を要約したものです。全文は気候ネットワークのブログをご覧ください。
2024年9月30日、イギリスで1967年から稼働してきた国内最後の石炭発電所が閉鎖されました。産業革命における技術革新とそれに伴う社会的な大変革の中で石炭火力発電所が誕生し、拡大してきたイギリスで、142年にわたる石炭による電力供給に終止符を打たれたことは歴史的な快挙です。石炭火力からの撤退までの背景と、政府の取り組みを紹介します。
石炭火力終焉までの道のり
- 1882年に世界初の石炭火力発電所が誕生して以来、20世紀前半まで石炭火力はイギリスの主力電源として電力を供給。2000年代に入っても電源の20%強を占めた。
- 2015年には2035年までに石炭火力発電を完全に廃止する政策を発表。
- 脱石炭政策に則り、再生可能エネルギーへの投資が拡大。特に風力発電の普及が著しく、北海沿岸に世界最大級の洋上風力発電所を建設。
- 住宅用および商業用太陽光発電システムの普及も進み、再生可能エネルギーのコストが急激に低下。
- 石炭に比べて二酸化炭素排出量が少ないガス火力発電は、再生可能エネルギーを主軸とした最終的な電力システム移行のための「橋渡し技術」として位置づけられている。
- 2024年には、イギリスの電力の約50%を再生可能エネルギーから供給。

脱石炭に向けた政府の取り組み
イギリス政府は、積極的な気候変動政策を打ち出してきましたが、中でも注目されるのは2008年に制定された「気候変動法」です。ここに温室効果ガスの削減目標が法的義務として明文化され、2050年までに炭素排出を実質ゼロにする目標が設定されました。
その後、2015年には2035年までに石炭火力発電を完全に廃止する政策を発表し、再生可能エネルギーへの投資を促進。電力貯蔵技術の進化も再エネの大量導入を後押しすることとなりましたが、その他にも容量市場の設置やスマートグリッドの整備に力を入れるなど電力需給調整に向けた取り組みを進めてきました。
日本でも容量市場が設置されていますが、イギリスでは容量市場の改革を通じて、石炭火力発電所の参加を制限する方向に進んできた点に大きな違いがあります。イギリスは排出量制限を通じて石炭火力発電所の段階的廃止を加速させてきましたが、日本の容量市場では2024年度のメインオークション(対象実需給年度:2028年度)でも発電効率が42%以上であれば稼働抑制が課されていません。これでは、石炭火力発電所の廃止にはつながりません。
また、イギリスは日本と同様に島国ですが、隣国であるノルウェー、デンマーク、フランスなどと電力を共有するための送電網を整備し、需給調整の柔軟性を高めている点は日本と異なります。
日本で石炭(化石燃料)火力の削減が進まない理由として「欧州諸国は国際連系線があるから…」という声も聞かれますが、イギリスを含めた欧州諸国は、国際連系線整備の膨大な資金を確保し、かつ電力の純輸入国になるか輸出国になるかのせめぎ合いを行わなければならないシビアな競争を生き抜いているという見方もでき、国内の連系も十分とはいえない日本が学ぶべき点があるかもしれません。
脱石炭の背景には社会的合意が
イギリスの石炭火力発電廃止の背景には、再生可能エネルギーの急速な普及と、実装に向けた政策的な誘導がありました。一方で原子力発電については、現在も国内電力の約15~20%を占めており、老朽化発電所の閉鎖が進む一方で、いわゆる「総括原価方式」に近い将来の原子力プロジェクトの資金調達を支援するための規制資産ベース(RAB)モデルを導入し、原子力を増強する案も出ているなど、今後の動向を注視する必要があります。
とはいえ、イギリスは経済的、政策的、技術的な要因を巧みに組み合わせて石炭火力発電から撤退し、持続可能なエネルギーシステムへの転換を実現させつつあります。日本を含む他国が同様の方針を進める上で、イギリスの事例を引き続き精査することには価値があるでしょう。
寄稿全文はこちら:イギリス石炭火力発電終焉を取り巻く環境とは | 気候ネットワーク・ブログ
<筆者紹介>
京都女子大学 現代社会学部 現代社会学科
諏訪 亜紀 教授
専門:環境学、特に再生可能エネルギー政策
京都女子大学 Voice Box “Seminar Report“
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