気候危機を
止めるために
世界が急いでいること
世界各地で、干ばつや森林火災、台風、
豪雨などの気象災害が増えています。
予想を超えて進む温暖化を抑えるために
世界が急いで取り組んでいることは?
\ここでの内容/
- 止まらない気候危機 ─ 今何が起きているのか
- まず石炭火力をやめよう ─ 50ヵ国が石炭ゼロ宣言
- 「気候正義」をまんなかに
止まらない気候危機
─ 今何が起きているのか
ここ数年、日本各地で線状降水帯による異常な豪雨や激甚化した台風の被害が増えています。日中の最高気温が35℃を超える「猛暑日」も珍しくなく、40℃以上になる「酷暑日」も続出しています。
世界中で、熱波による干ばつや森林火災、前例のない台風や豪雨などの気象災害が深刻化し、農作物の不作による食糧不足や健康被害のニュースも多くなってきました。
この世界的な異常気象の原因は、人間活動が大気中に増やした「温室効果ガス」による地球温暖化が引き起こす気候変動です。
地球温暖化の進行を人や生き物が適応できるレベルにとどめるには、気温上昇を産業革命前に比べ1.5℃に抑えなければなりません。世界は、2015年のパリ協定以降、国際会議でこのことを約束しています。
しかし、2022年にはすでに1.1℃上昇し、ここ数年間で気温上昇はより深刻になってきました。2023年7月の世界の気温は史上最高となり、専門家は「12万年ぶりの暑さ」と指摘し、国連のグテーレス事務総長も「地球沸騰化の時代が到来した」と警告しました。
2027年にも1.5℃を超える─WMOの報告
「2027年までに66%の確率で1.5℃に達する可能性が高い。」
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の主要機関、世界気象機関(WMO)が、2023年5月にそう警告しました。同事務局長ペッテリ・ターラス氏は「気候変動により、1.5℃越えはますます増えていく」と、今後5年間に気温が観測史上で最も高くなる可能性を懸念しています。
早まる北極圏からの氷床消失
グリーンランドと南極の氷床が急速に縮小しています。極地の氷床を研究する「氷床質量収支の相互比較研究(IMBIE)」チームの調査では過去30年間に北極圏と南極圏全体から失われた氷床は8兆3000億トン以上。その上位7年までがこの10年間に集中しています。
さらに、このままでは2050年までに予測されていた夏の北極海からの氷の消失が、2030年代に早まる恐れも指摘されています。
北極海から氷が消失すると地球温暖化が加速し、北極圏以外の生態系にも大きな影響をおよぼします。さらにシベリアの永久凍土が溶け、CO2の28倍もの温室効果を持つメタンガスが大量放出される事態も心配です。
極地の氷の融解と温暖化による海面上昇で、2050年には沿岸に住む人口の4割が影響を受けるとも言われています。
IPCC第6次評価報告書統合報告書は、全人類が住みやすい持続可能な未来を確保するチャンスは急速に失われつつあると強い警鐘を鳴らしています。しかし、まだ道はまだ残されています。
まず石炭火力をやめよう
─ 50ヵ国が石炭ゼロ宣言
気候危機のいちばんの要因は、石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料を燃やすことで温室効果ガスのCO2が大量に排出されて、大気中に蓄積していること。世界では1年間に約400億トン(CO2換算)もの温室効果ガスが排出され、地球温暖化を1.5℃に抑える目安であるカーボンバジェット(炭素予算)を、この先6年あまりで使い果たしてしまうといわれています。気候危機の回避には、化石燃料の利用を一日でも早くストップする必要があるのです。
なかでも石炭火力発電は、CO2排出量が天然ガスの約2倍と大きく、有害な大気汚染物質も排出します。できるだけ早い時期に、人類は石炭火力発電を卒業しなければなりません。
すでにヨーロッパでは、G7諸国のイギリス、フランス、イタリア、ドイツなど23カ国が2030年前後の廃止を決定。国際エネルギー機関(IEA)は2050年ネットゼロに向けたロードマップ(原題:Net Zero by 2050: A Roadmap for the Global Energy Sector)の達成には、新規の石炭火力発電所への投融資をやめ、先進国は2030年までに石炭火力発電所を全廃し、電力部門の温室効果ガス排出を2035年までにゼロにすること、さらに全世界の石油・石炭火力発電所を2040 年までに全廃することを提言しています。
銀行や機関投資家も石炭関連産業への投融資から次々に撤退。企業にも石炭火力や原子力より低コストになった再エネ100%で電力をまかなう変化が急速に拡大中です。経済合理性からも石炭からの撤退が正しいことが、もはや世界の常識になったと言えるでしょう。
「気候正義」をまんなかに
“世界人口の50%を占める貧困層が排出する温室効果ガスは10%に過ぎず、
たった10%の裕福な人々が、温室効果ガスの半分を排出しています”
(国際NGO Oxfam“Extreme Carbon Inequality, 2015″)
2022年、パキスタンでは大洪水で国土の1/3が浸水し、多くの人が財産や住居を失いました。この年、東アフリカ地域では、過去40年で最悪といわれる干ばつで水と食糧が不足し深刻な人道危機が発生しています。気候変動で大きな被害を受けるのは、アジアやアフリカなど途上国で温室効果ガスをほとんど排出しない生活を営む貧しく弱い立場の人々です。一方その原因を作ったのは、大量の温室効果ガスを排出しながら経済発展してきた国々で豊かに暮らす人々です。
「気候正義」は、このような不平等・不公正をなくそうという考え方です。経済力のある豊かな国にはふたつの責任があります。ひとつは自国での温室効果ガス排出削減をできるかぎり急ぐこと。そして途上国の気候変動対策支援です。さらに、途上国で生じた気候変動による「損失と損害」への補償も求められ、2022年のCOP27では重要なテーマとして話し合われました。
世代間の不平等・不公正、
世代を超えた格差と向き合う
また「気候正義」は、世代間の不平等・不公正と向き合うことでもあります。豊かな生活と引き換えに温室効果ガスを大量に排出してきた現役世代よりも、子どもや若者、これから生まれてくる世代ほど、気候変動による深刻な危機に直面します。また世代を超えて経済的に困窮する人々はエアコンすら使えず夏と冬に命の危険にさらされています。気候変動の深刻さを訴えるFridays For Futureなど若者たちの声や、生活困窮者の現実と真剣に向き合う必要があります。ウェールズ政府が制定した「未来世代法」(未来世代の豊かさと幸せに関する法:Well-being of Future Generation Act)のような将来世代のウェルビーイング(幸福)を守る制度や、困窮世帯への公助、化石燃料産業・石油化学産業から代替産業への「公正な移行」を進める雇用対策など、具体的な制度を急がなけれなばなりません。