【ニュース】横須賀石炭火力訴訟で不当判決


2023年1月27日、横須賀市久里浜で建設が進む石炭火力発電所について、住民ら48名が国の環境アセスメント手続きの違法性を訴えて提訴した裁判で、東京地方裁判所は原告の訴えを退ける判決を下しました。判決では48名の原告のうち、横須賀市を含む三浦半島5市町(横須賀市、三浦市、逗子市、鎌倉市、葉山町)在住の原告の請求を棄却、それ以外の横浜市や千葉県などに在住する原告に対しては原告適格を認めず請求を却下しました。原告と弁護団はこの判決を不当だとして、控訴する意向を示しています。

この裁判は、横須賀石炭火力発電所(65万kW×2基)の建設計画段階における環境影響評価(環境アセスメント)で確定通知を発行した国を地域住民らが訴えたものです。環境アセスメントにおいては、事業者がこの計画を旧火力発電所からの「改善リプレース」として、国の合理化ガイドライン等を適用して手続きを簡略化し、計画段階配慮書において温室効果ガスの排出による環境影響を配慮事項に選定せず、大気汚染や温排水の影響などについて必要な評価を行なっていませんでした。今回の判決で裁判所が訴えを退けたことに対して、弁護団は以下のような点で非常に問題だとして声明を発表しました。

(1)本件原告についての地球温暖化の具体的な被害のおそれを認め、かつ、有害物質による大気汚染被害を受ける本件発電所から20km以内に居住し又は勤務する者について原告適格を肯定したものの、地球温暖化被害については、環境影響評価法及び電気事業法は、地球温暖化被害を受けるものの利益を特に保護するものでないとして、原告適格を否定した。

(2)合理化ガイドラインの条件を満たすとして、有害物質による大気汚染被害及び温排水による被害についても、調査及び予測に欠けるところはないとし、PM2.5についての調査は不要とした。

(3)地球温暖化についての環境アセスメントについても、石炭以外の燃料種との比較検討は不要であり、その影響の調査、予測、国の中期目標との整合性が図られていると整理するとした「局長級会議とりまとめ」(2013年)を根拠とした本件確定通知を適法とした。

横須賀石炭火力発電所が計画された2015年は、パリ協定が締結され、世界の平均気温の上昇を産業革命前から2℃を十分に下回る水準に抑制し、1.5℃まで抑制することに努力するとの国際合意ができた年です。世界が大きく気候変動対策を加速しようという中で、稼働すれば726万トンものCO2を毎年排出し続けるこの計画は進められてきました。それにもかかわらず、本計画と国の対応の不当性に日本の裁判所は全く向き合わなかったのです。

世界の気候訴訟では、裁判所が気候変動の被害を正面から受け止め、政府や企業(事業者など)に対して具体的でより厳格な削減目標や削減計画の策定などを求める判決が次々と下されています。今回の日本における判決は、世界の潮流から外れた日本の司法の在り方を浮き彫りにしたと言えるでしょう。

参考サイト:横須賀石炭訴訟(リンク