【ニュース】COP30に向けた国連総長の警告「1.5℃は人類にとってのレッドライン」


ブラジルのベレンで開催された第30回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP30)(2025年11月10日から21日)に先だつ首脳会合においてアントニオ・グテーレス国連事務総長は、11月6日の演説および翌7日の気候サミット・エネルギー転換ラウンドテーブルでの発言の中で、地球の気温上昇を1.5℃に抑えるという目標の一時的な超過は避けられないと警告し、各国は気温上昇を1.5℃抑制する野心が不足していると厳しく批判しました。このギャップを埋めるべく、5つの分野での取り組みを進展させることを求めています。

発言の背景には、各国の気候変動対策が十分に進展していないことが数字にも表れていることがあります。COP30開催の前に公表された、国連の報告書によれば、2024年1月1日~2025年9月30日までに国の温暖化ガス(GHG)排出削減目標である次期NDC(2035年排出削減目標)を提出したのは64か国のみ。そしてその64か国による排出は、世界全体の排出量の30%(2019年実績)です。パリ協定で合意した産業革命前に比べて世界全体の平均気温の上昇を1.5℃に抑えるには2035年までに60%の削減が必要ですが、提出されたNDCを分析した結果では、2035年時点の削減率目標は2019年比で平均17%減に留まっていました。

11月6日:リーダーズ・サミットでの演説

グテーレス事務総長は演説の中で、「1.5℃の上限は、人類にとってのレッドライン(超えてはならない一線)」であると警告し、化石燃料が依然として膨大な資金提供を享受していることを指摘するとともに、多くの人々が自国の指導者が行動を起こすという希望を失いつつある中、より迅速に一致団結して行動を起こす必要性があると訴えました。1.5℃目標とNDCのギャップを埋めるためには、大胆かつ信頼性の高い対策計画が必要であり、具体策として、再生可能エネルギーの拡大、電化、エネルギー効率の向上、送電網と蓄電施設の建設、森林破壊の停止、メタン排出の削減、そして、1.5℃目標に沿った短期での石炭の段階的廃止スケジュールを設定する必要があると述べています。

グテーレス事務総長は、「これまで一貫して新たな石炭火力発電所の建設や化石燃料の探査、開発には反対と訴えてきた」と強調するとともに、「グリーンウォッシュは許さない」「抜け穴も許されない」として、実際的な温室効果ガスの削減につながる対策を実行するよう強く求めています。

11月7日:気候サミット・エネルギー転換ラウンドテーブルでの発言

「化石燃料の時代は終わりを告げつつある。クリーンエネルギーが台頭している。」から始まったグテーレス国連事務総長の発言は、2024年の新規発電容量の90%が再生可能エネルギーによるものであったこと、クリーンエネルギーへの世界の投資額が2兆ドルに達し、化石燃料への投資(8,000憶ドル)を上回ったこと、再生可能エネルギーがほぼすべての国で新規電力源として最も安価な選択肢となったことと続きます。「再生可能エネルギー革命は既に始まっている」とエネルギー転換が確実に進んできていることに言及し、「さらに加速させ、全ての国がその恩恵を共有できるように確保しなければならない」と述べています。一方で、各国の削減目標が達成できたとしても、遅くとも2030年代前半に1.5℃を超えることはもはや避けられないと危機感を示しました。

そのうえで、パリ協定の目標を達成するために、世界の排出量を2030年までにほぼ半減させ、2050年までにネットゼロを達成し、その後、ネットネガティブに転換させるためには、各国が以下の取り組みを進めることを求めています。

  1. 明確性と一貫性を提示する:公正なエネルギー転換に沿った法規、政策、インセンティブを整備し、化石燃料補助金を廃止すること。
  2. 移行の中心に「公正な移行」を据える:石炭・石油・ガスに依存する労働者と地域社会を支援する。特に若者と女性を対象に、訓練・保護・新たな機会を提供する。
  3. 送電網・蓄電・効率化へ投資する。
  4. AI革命を牽引するデータセンターを含む、新たな電力需要の全てをクリーンエネルギーで賄う。
  5. 途上国向けに大規模な資金調達を可能にする。

これら5つの取り組みを述べた後、改めて「各国の道筋は異なるかもしれないが、到達点は同じでなければならない」「再エネで支えられたネットゼロの世界、その後に一貫して続くネットネガティブの世界」を目指すべきであると強調しています。

日本は、いまだに発電の約3割を石炭火力に依存しており、非効率石炭を段階的に廃止するための具体的な計画を示さないばかりか、水素・アンモニアを活用してCO2排出をわずかに削減させつつ石炭火力を活用し続ける方針を示しています。

グテーレス事務総長の言うように、化石燃料の時代は終わりを告げつつある中、日本がこのまま方向転換をせず、化石燃料に固執し続け、「異なる道筋」を取ることを主張し続けるのであれば、世界と共に歩むことができなくなってしまうでしょう。

出典

UNFCCC News: This COP must ignite a decade of acceleration and delivery: UN Secretary-General address to Belém Leaders Summit
6 November 2025

UNFCCC News: UN Secretary-General’s remarks at the Belém Climate Summit’s energy transition roundtable
7 November 2025

参考

Nationally determined contributions under the Paris Agreement. Synthesis report by the secretariat (Link)
Nationally determined contributions under the Paris Agreement (PDF)