【ニュース】JERAの市場操作は結局うやむやに⁉ 不正行為が繰り返されない規制強化を


2024年11月、国内最大手の電力事業者JERAは、卸電力市場で相場操縦にあたる行為をしていたとして、経済産業省の電力・ガス取引監視等委員会(以下「電取委」)から電気事業法に基づく業務改善勧告を受けました。環境NGOなどは、影響を認識しながら取引価格をつり上げたことは重大な問題であるとして抗議声明を発表しましたが、その後、どのように処理されたのでしょうか。

業務改善勧告の概要

2019年4月から2023年10月までの間、日本卸電力取引所(JEPX)が開設する翌日市場(スポット市場)において、JERAが市場相場を変動させる認識を有していたにも関わらず、余剰電力の一部を供出(売り札を出すことを)していなかったことに対し、電取委が業務改善勧告を発出。

事態の経過

2024年11月12日
電取委は、電気事業法第66条の12の規定に基づき、JERAに対して業務改善勧告を行い、法令順守の体制整備を講じた上で、再発防止策について12月12日までに報告するよう求めた。(経済産業省ニュースリリース

2024年12月12日
JERAが再発防止策等をまとめた報告書を電取委に提出。「利益を享受する目的で相場操縦を行う意図はなかった」などと弁明。(JERAリリース

2024年12月27日
電取委は、内容を精査し、業務改善勧告に対する報告として不十分な箇所があるとして、未供出原因と対策の関連性と背景の具体化と総点検の終了時期および短期・中期対策の明確化を求め、2025年3月31日までに、追加報告を行うよう要請。(経済産業省ニュースリリース

2025年3月31日
JERAが再発防止策に関する追加報告を電取委に提出。(JERAリリース

2025年4月9日
電取委は、JERAから追加報告書の提出があり、その内容を確認し受領したとのリリースを発出。「引き続き、本件に関連するJERAの対応について重点的に確認・指導」するとした。(電取委リリース

電力会社は、国のルールで余剰電力の全量をJEPXの運営する卸市場へ出すよう義務付けられています。しかし、JERAは発覚しているだけでも2019年4月から2023年10月までの約4年半にわたって余剰電力を入札していませんでした。これが、公正取引委員会と経済産業省が定める指針(ルール)で禁止されている相場操縦にあたる売り惜しみ行為だと認定されました。JERAは入札ツールの不具合が原因だったと報告していますが、2019年時点で問題を把握していた職員がいたにもかかわらず是正せずに放置していたと報じられており、明らかなコンプライアンス軽視です。

経産省が示した「事案の概要」には、データの残っている2020年10月から2023年までの3年あまりの間、JERAによる不正がなければ約54憶kWhの売り入札が追加的になされていた可能性があり、そのうち約6億5千万kWhの売り入札が約定していた可能性があったこと、2021年3月には約定価格が50円/kWh以上下落していた可能性もあることが記されています。

電取委は「競争を通じた低廉な価格での電力供給を受けるという需要家の利益を侵害し得るものであったという批判は免れない」と断じています。

JERAの報告書は公開されず、市場への影響の詳細も明らかにされていませんが、同社の市場規模を踏まえると、その影響の大きさは計り知れません。にもかかわらず、JEPXの業務規程によると、取引所自体に損害を与えていないJERAの市場操作は、過怠金を科す対象には該当しません。これが証券取引であれば、不公正取引で変動操作取引が行われた場合、該当企業に対して証券取引等監査委員会が違反行為による利得相当額を基準として算出した課徴金の納付を命じることになります。電取委も、中小の電力会社や新電力、消費者に大きな経済損失を与えた可能性もあるJERAの事例に対しては、業務改善勧告に留まらず、不正によって得られた収入の返還や課徴金を科すことができるように規制を強化すべきです。

本件については、電取委がJERAからの追加報告書を受領し、「引き続き、本件に関連するJERAの対応について重点的に確認・指導してまいります。」するというリリースを発出したところで終わっています。本来は、電力会社が不正行為、価格操作を行うことがないように規制を強化する必要があるにも関わらず、「引き続き確認・指導」に留まっていることは問題です。今なお、JERAに限らず大手電力会社によって同じような不正が起こり得る土壌が残っており、同様の不正があったとしてもそれを処罰する法的措置もないまま、大手電力会社が不正な利益を得続けることもあり得る状況です。実際、電力会社は本件以外にも中部電力や九州電力、関西電力のカルテル疑惑など不正続きで、全く信頼できません。監視機能を高め、不正を起こしにくくすることが不可欠でしょう。

さまざまな団体からの意見

全国消費者団体連絡会
意見「株式会社JERAの電力スポット市場における相場操縦に対し、厳正なる対応と電気料金への影響についての調査を求めます」を提出しました(2024/12/20

自然エネルギー財団
JERAによる相場操縦に対する電取委の業務改善勧告を受けて(2024/12/5

気候ネットワーク、原子力市民委員会ほか
【共同抗議声明】JERAの電力市場の市場操作に対する業務改善勧告を受けてーJERAは電力価格を吊り上げ消費者や新電力事業者に甚大な不利益をもたらした(2024/11/15

参考情報

JERA
スポット市場への未入札等に係る電力・ガス取引監視等委員会への再発防止策の提出について(2024/12/12
電力・ガス取引監視等委員会からの再発防止策に関する追加報告要請の受領について(2024/12/27
電力・ガス取引監視等委員会への再発防止策に関する追加報告について(2025/03/31

電力・ガス取引監視等委員会
株式会社JERAから追加報告を受領しました(2025/4/9

経済産業省
株式会社JERAに対する業務改善勧告を行いました(2024/11/12
株式会社JERAから提出された報告書に関して同社に対して追加報告を要請しました(2024/12/27