【ニュース】G7環境大臣会合:脱石炭の目標設定に日本が反発、わずかな前進で閉幕


2023年4月16日、札幌でG7(日本、ドイツ、米国、英国、フランス、カナダ、イタリア)気候・エネルギー・環境相会合が開催されました。

ロシアのウクライナ侵攻に端を発した世界的なエネルギー危機を背景に、気候・エネルギー・環境大臣らは、自国の化石燃料への依存度を下げ、クリーンエネルギーへの転換を進めるための議論を行い、5月19-21日に広島で開催されるG7サミット(主要国首脳会議)に先だち、G7閣僚が合意した約束を盛り込んだ以下の内容を含む共同声明(コミュニケ)を採択しました。

    • 排出削減対策が講じられていない新規の石炭火力発電所の建設を終了する必要性を認識する(パラグラフ66)
    • 1.5℃度目標に整合する形で、国内の排出削減対策が講じられていない石炭火力発電のフェーズアウトを加速するという目標に向け、具体的かつタイムリーな取組を行う(同66)
    • 2035年までの完全又は大宗の電力部門の脱炭素化を図る(同66)
    • 遅くとも2050年までにエネルギーシステムにおけるネット・ゼロを達成するために、排出削減対策が講じられていない化石燃料のフェーズアウトを加速させる(同49)
    • 1.5℃目標および2050年ネット・ゼロ目標に整合していない全ての締約国に対して、COP28より十分に先立って排出削減目標を強化することを求める(同46)
    • 2025年までに温室効果ガス排出量をピークアウトすることにコミットする(同46)
    • 2030年までに再生可能エネルギーの導入拡大とコスト引き下げる目標を達成する(同64)
    • 世界のGHG排出量を2019年比で2030年までに約43%、2035年までに60%削減することの緊急性が高まっていることを強調する(同44)

 

日本政府は、昨年のG7気候合意を後退させ、今年の合意においても抵抗していましたが、今回のコミュニケでは多くの約束が再確認されただけでなく、強化されることとなりました。2022年には、「国内の排出削減対策が講じられていない(unabated)石炭火力発電所の段階的廃止(フェーズアウト)を加速させる目標に向け、具体的かつタイムリーな処置」を優先させることが合意され、「気温上昇を1.5℃に抑え続けることと整合性の取れた方法で」フェーズアウトが進められなければならないと明記されました。各種研究には、日本や他のOECD諸国は2030年に石炭火力を廃止しなければならないと示されています。

さらにコミュニケには、「国際エネルギー機関(IEA)が2022年に発表した『Coal in Net Zero Transitions(仮訳:ネット・ゼロ移行における石炭)』報告書で指摘したように、排出削減対策が講じられていない新規の石炭火力発電所の建設を終了する必要性を認識」し、「排出削減対策が講じられていない新規の石炭火力発電所のプロジェクトを世界全体で可及的速やかに終了することを他国に呼びかけ、協働する」と記されています。

また、2022年のG7首脳会議の合意で「2035年までに電力部門の完全又は大宗(predominantly)を脱炭素化の達成」を目指すとされた文言は、今回の環境大臣会合でも再確認されました。しかし、日本以外のG7諸国が、2035年までに電力部門を「完全に脱炭素化」することへの合意を目指していたのに対し、日本はG7で唯一この内容に約束することに抵抗を示し、コミュニケの中に「大宗」の文言を残すように主張したと報道されています。

今年のコミュニケにおいてもうひとつ特筆すべき点は、新たに再生可能エネルギーの具体的な目標が示されたことです。IEAや国際再生可能エネルギー機関(IRERA)の分析に基づき、G7諸国は、2030年までに洋上風力の容量を合計で150GW増加させると共に、太陽光発電の容量を同じく2030年までに1TW以上に増加させることに合意しました。これらの目標は、G7が、石炭火力発電を段階的に廃止することに加え、自然エネルギーを拡大することが電力部門を脱炭素化するための最も実現可能かつ効果的な道筋であると捉えていることを明確に示しています。

合意された事項だけでなく、コミュニケに含まれなかった内容にも注目しておく必要があります。日本はGX(グリーントランスフォーメーション)政策やアンモニア・水素の化石燃料との混焼について、G7の賛同を求めたとされていますが、日本以外のG7諸国はこれらに強い批判を示し、化石燃料に利用を延命する日本の計画に対して、ジョン・ケリー米国気候問題担当大統領特使を含む各国代表は懸念を示し、いずれの内容に対しても支持することを拒みました。他国からの賛同を得られなかったことから、コミュニケではアンモニア混焼を支持せず、1.5℃への道筋と2035年電力部門の脱炭素化というG7の目標に沿うことができれば、低炭素で再生可能な水素とその派生物(アンモニア)を電力部門で使用することを検討している国もあると「留意すること」にとどめました。とはいえ、日本のGX基本方針と燃料アンモニアの使用が1.5℃目標とG7目標のどちらにも整合しないことが、すでに多くの報告書に記されています。

G7環境大臣会合のコミュニケは、脱炭素化に向けた新たな一歩ではありますが、1.5℃目標を達成し、気候危機による最悪の影響を回避するため、石炭火力を段階的に廃止(フェーズアウト)させるのに必要な緊急性を欠くものです。目標を達成させる手段として、日本は2030年までに石炭火力をフェーズアウトさせる必要があります。岸田首相は広島で開催されるG7首脳会議で日本のリーダーシップを発揮し、2030年までに石炭のない世界を実現することを支持するべきです。

関連リンク

環境省:G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合(リンク
G7 気候・エネルギー・環境大臣会合コミュニケ(原文(PDF)/仮訳(PDF)

パートナー団体からのプレスリリースなど

  • 【気候ネットワーク】G7気候・エネルギー・環境大臣会合閉幕にあたって―日本は議長国として、石炭火力発電の全廃時期も含めた1.5℃への具体的な道筋を示すべき(リンク
  • 【自然エネルギー財団】GX基本方針およびGX推進法案の閣議決定にあたって(リンク
  • 【350 Japan】G7札幌環境・エネルギー・気候大臣会合を受けて: 石炭を含む化石燃料の全廃に向けた明確なロードマップを示すべき  (Japanese language only)(リンク
  • 【Foe Japan】G7気候・エネルギー・環境大臣会合に対する声明―気候危機からも原発事故からも目を背ける日本政府の姿勢が鮮明に― (Japanese language only)(リンク 
  • 【WWFジャパン】WWF は、G7環境大臣会合「2035 年温室効果ガス 60%削減」必要性の表明を歓迎するも、日本の電力脱炭素化へのリーダーシップ欠如を憂う(リンク 
  • 【CAN-JAPAN】G7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合を受けて―G7広島サミットで1.5℃への道筋を示し、脱炭素を加速させる合意が求められる―(リンク
  • 【グリーンピース・ジャパン】野心に欠けたG7環境大臣会合ーー日本、ZEV導入加速で存在感示し、自動車産業の斜陽化防げ(リンク