2024年4月28日から30日の3日間、イタリアのトリノで開催されていたG7気候・エネルギー・環境大臣会合では、国際合意としては初めて2030年代前半にCO2排出削減が講じられていない既存の石炭火力を段階的に廃止する、と石炭火力廃止の期限に踏み込んだコミュニケ(共同声明)がとりまとめられました。
2023年4月のG7気候・エネルギー・環境大臣会合(札幌)では、日本が石炭火力の廃止の期限をコミュニケに盛り込むことに強く反対し、明記されませんでした。今回、「2030年代前半、または各国のネット・ゼロの道筋に沿って気温上昇を1.5℃に抑えられるスケジュールで、エネルギー・システムにおける既存の排出削減対策がとられていない石炭火力発電を段階的に廃止する」との合意に至ったことは一歩前進ですが、それだけ気候変動対策への切迫感が増していることの現れであることも踏まえると、2030年代前半では遅すぎるとの批判は免れ得ません。
日本の消極的な姿勢
G7諸国のうち、イタリア、英国、フランス、ドイツ、カナダは2030年までの石炭火力の廃止を表明しています。米国は昨年のCOP28で、既存の石炭火力発電の2030年までの段階的廃止を誓約する脱石炭国際連盟(PPCA)に参加しました。さらに、米環境保護庁(EPA)は4月25日に、国内の既存の石炭火力発電所を2039年1月時点以降も稼働させるには、CO2排出量の90%を回収する策を講じていなければならないとの新たな規制を発表しました。一方の日本は、PPCAには加盟しておらず、石炭廃止年を明確に定めることもせず、今回の会合でもコミュニケに廃止時期を明記することに難色を示したと報道されています。欧州を中心に石炭からの撤退を進める国際的な動きから、日本はますます遅れを取っている状況です。
排出削減対策のとられていない(Unabated)ーを独自解釈すべきではない
今回の合意文書では、「各国のネット・ゼロの道筋に沿って」とすることで、日本が独自解釈により石炭火力発電を継続させる逃げ道を残したことが懸念されます。日本政府は、燃焼時にCO2を出さない水素やアンモニアを石炭と混焼することが、排出削減対策に該当すると主張しています。IPCC第6次評価報告書では、排出削減対策が取られているとはすなわち「発電所から排出されるCO2を90%以上回収すること」(第三作業部会報告書)としており、水素・アンモニア混焼によりその水準を満たすことは難しいと言わざるを得ません。現在、大規模発電所でアンモニアを20%混焼させる実証実験を行っていますが、アンモニアは製造過程で大量のCO2を出すだけでなく、混焼した際の排出削減効果は限定的だと指摘されており、国際的な理解も得られていません。さらに、仮にグリーンアンモニア(生産時を含むライフサイクルでCO2を排出しないアンモニア)が入手可能になったとしても、専焼に至るのは2050年とされているように、技術的、時間的な課題が残っており、実質的な削減対策とは言えません。確約されていない技術による見せかけの削減効果を「排出削減対策」として推し進めるべきではありません。
エネルギー基本計画の改定は、今回の合意を反映させる内容になるか
第6次エネルギー基本計画では、石炭が「重要なエネルギー」と位置づけられており、2030年に電源構成のうち19%を占める見通しとなっています。2022年度の日本におけるエネルギー別発電の割合は石炭が29.7%、化石燃料合計では2022年度の年間発電電力量全体の70.2%となっています。再生可能エネルギーは増加傾向にはあるものの、(太陽光、水力などの合計で)24.5%に留まり、さらに大幅な拡大が必要です。第7次エネルギー基本計画に向けた議論では、2035年度以降の電源構成の目標をどう定めるかが焦点となるため、その中に今回の合意およびCOP28での再エネ拡大目標がどのように反映されるかに注目しておく必要があります。
脱炭素の動きを加速させるためには、日本の脱石炭に対する消極的な姿勢を改め、石炭火力の延命につながるような合意文書の独自解釈を捨て去るべきでしょう。
参考
Climate, Energy and Environment Ministers’ Meeting Communiqué(リンク)
JBCパートナー団体からの意見
- 350ジャパン:G7気候・エネルギー環境大臣会合における「2030年代前半の石炭火力発電フェーズアウト」報道に関するコメント
- 気候ネットワーク:【プレスリリース】G7気候・エネルギー・環境大臣会合での石炭火力廃止合意をうけて―日本は1.5℃目標実現への貢献を明言し、石炭火力の廃止に踏み出すべき
- WWFジャパン:【WWF声明】石炭火発の廃止年限明示に踏み込めなかったG7環境大臣会合コミュニケに抗議する
FoE Japan:声明:トリノG7気候・エネルギー・環境大臣会合「2030年代前半に石炭火力廃止を」日本は方向転換が不可欠 - CAN-Japan:【プレスリリース】G7気候・エネルギー・環境大臣会合を受けて ーー今こそ石炭火力発電全廃への道筋を描けーー