【ニュース】日本の水素・アンモニア戦略は本当に認められたのか?


4月15-16日に札幌で開催されたG7気候・エネルギー・環境大臣(以下、G7環境大臣会合)の前後に、日本のエネルギー戦略、もっと具体的に言えば、脱炭素戦略について、さまざまな報道が出ました。近年の巨大台風や気温上昇の主たる原因である気候変動への対策が、日本だけでなく世界共通の喫緊の課題であることを鑑みれば、気候変動対策のために必要な経済および産業構造の転換にも関連する今回のG7環境大臣会合での協議内容は、私たちの生活に非常に深く関わってくるものと言えます。残された時間を考えれば、G7が一枚岩となって対策を進めなければならないのにも関わらず、西村経産相と西村環境相が共同で議長を務めたG7環境大臣会合では、日本とG6との見解のギャップが浮彫りになりました。

G7環境大臣会合での協議結果をまとめた共同声明(コミュニケ)には幅広い内容が盛り込まれ、項目は92にも及んでますが、ここでは特に、日本の脱化石燃料政策と水素・アンモニア戦略が他国(G6)からどのように見られているかギャップを紹介します。

前提:科学が示す気候変動対策の目標とG7環境大臣会合の認識

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が3月にまとめた第6次評価報告書(AR6)を踏まえ、地球の気温上昇を1.5度以内に抑えるというパリ協定の目標を達成するためには、2035年までに温暖化ガスの排出量を2019年比で60%削減する必要があることが明示されました。この前提については、今回のG7環境大臣会合の共同声明(コミュニケ)にも「我々は IPCC の最新の見解を踏まえ、世界の温室効果ガス排出量を2019年比で2030年までに約43%、2035年までに60%削減することの緊急性が高まっていることを強調する(Para44)」と書かれています。

ギャップ1:化石燃料の廃止期限

今回の会合の焦点の一つとなっていたのが、石炭火力発電を全廃する時期についての合意でした。2035年までの電力部門の脱炭素化について、日本以外の国が「完全または大宗(predominantly)」との記載から大宗を削除し、「完全」のみとすべきと主張したのに対し、日本は「大宗」を残すことに拘ったとされています。石炭火力はCO2排出が最も大きな電源であるため、英国やカナダが早期全廃を盛り込むよう求めていたことに日本は強く反対していました。結果は、気温上昇を抑制する目標と矛盾しないようにとの条件付きで、石炭火力発電のフェーズアウトを加速していくことが合意されましたが、英国やカナダが求めていた廃止時期自体は明示されませんでした(Para66)。

ギャップ2:日本の主張する水素・アンモニア混焼技術の推進

もうひとつの焦点が、発電燃料としての水素・アンモニアの利用です。CO2の排出を削減する対策さえ講じれば、化石燃料を使う火力発電の活用が容認されたと解釈する意見も見られますが、水素・アンモニアの混焼は日本政府や一部メディアが主張するような「柔軟な対応」とは他国に見られていません。G7環境大臣会合の開催前から英国とカナダは日本の「革新的技術」に疑問を呈していましたし、米国の気候変動問題担当の大統領特使ジョン・ケリー元国務長官もインタビューで、水素やアンモニアを化石燃料と混焼させることは深刻な問題や重大な課題をもたらす可能性があると指摘しています。発電部門でのアンモニア利用については、英国、フランスらが燃料アンモニアの記載の削除を求めたのに対し、日本が反発し、結果として「アンモニアなどのその派生物(Para67)」という曖昧な表現が残ることとなりました。各国からは、水素・アンモニアの混焼は、脱炭素社会への移行を加速させるどころか、移行を阻む、あるいは早急に解決しなければならない問題を先送りにするとの疑義が出されています。日本が脱炭素政策の中心に据える「ゼロエミッション火力」と称する技術革新は、世界から見れば石炭火力の温存につながるものであり、決して認められたものではないのです。

ギャップ3:ガスは脱炭素の解決策なのか

また、ケリー大統領特使は、石炭よりCO2排出量が少ないガスを脱炭素の解決策のように誇張されていることにも懸念を示していました。会合後に経産相はツイッターで「天然ガス部門への投資の適切性も合意した」と書いていましたが、ケリー大統領特使をはじめ他国の代表は「化石燃料の段階的廃止」がコミュニケに盛り込まれたことを重視しており、異なる認識を示しています。コミュニケには「排出削減対策が講じられていない化石燃料のフェーズアウトを加速させるという我々のコミットメントを強調し(Para49)」、「化石燃料への補助金はパリ協定の目標と整合していないことを強調する。(Para73)」と記されています。これを「合意」とするのは、日本政府が都合のよいように解釈しているとしか見ません。

ギャップ4:原子力発電に対する温度差

最後に、原子力発電については各国の見解に温度差があったことを付け加えておきます。日本はGX(グリーントランスフォーメーション)基本方針の中で原子力を最大限活用することなどを盛り込み、原子力発電所の新設・増設・建替えについても積極的に進めていく姿勢を示していますが、同様に原子力を活用していく方針を示したのは米国、カナダ、英国、フランスでした。一方で、イタリアはすでに原発を廃止、ドイツも脱原発を完了(4月15日)と異なる立場が示されました。G7環境大臣会合コミュニケには「原子力エネルギーの使用を選択した国々は、(中略)世界のエネルギー安全保障を確保する原子力エネルギーの潜在性を認識する。(Para70)」と条件付きで記載されています。G7が足並みを揃えているわけでも、日本の原発推進が「歓迎」されているわけでもありません。

 

日本は「脱炭素には様々な道筋がある」と主張していますが、2035年までに60%削減させる目標に真剣に取り組むのであれば、2040年代に実用化が見込まれる技術を待っていたのでは間に合いません。合意に抵抗し、さらにその結果を自国なりに解釈して誤った脱炭素戦略を押し進めていたのでは、気候変動対策に一層の遅れをきたし、日本の経済や産業活動にも大きな影響を及ぼすことになります。再エネなど既存の技術の拡大、コスト削減に向けて投資を集中すべきです。


参考報道

・Japan’s coal tech for Asia questioned by U.K. and Canada(Nikkei Asia
・日本が構想する火力発電のアンモニア混焼 ケリー米特使が懸念示す(毎日新聞
・Why G7 climate leadership is on the line in Japan(New Statesman
・Japan’s Natural Gas Dependence: A Liability For the G7(Energy Tracker Asia
・Japan pushes for ‘realistic’ approach to hitting net zero(Financial Times)

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