約200の締結国が参加していた国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)は、会期を1日延長した日本時間の12月13日に閉幕しました。今回、最も注目されていたグローバル・ストックテイク(GST)では、気候変動の主要因である「化石燃料からの脱却」に合意する成果文書が採択されました。化石燃料から脱却する必要性についてこれほど明確に書かれたのは、30年近いCOPの歴史の中でも初めてのことです。
COP28の成果文書「UAE合意」に盛り込まれたこと
1)化石燃料からの脱却と再生可能エネルギーへの移行
世界全体の気候変動対策の進捗評価である、グローバル・ストックテイクの合意文書には緩和、適応、実施手段(MoI)と支援、損失と損害など幅広い気候変動対策の進捗評価と、今後の課題や方向性が示されています。その中でも特にエネルギー関連で特筆しておきたいのはパラグラフ28です。
パラグラフ28では、産業革命前からの気温上昇を1.5℃以内に抑える経路に沿って温室効果ガスの排出を大幅、迅速かつ持続的に削減する必要性を認識し、パリ協定とそれぞれの国情、経路、アプローチを考慮して国ごとに決められた方法で、世界的な取り組みに貢献するよう締約国に求めています。そこに記された項目は以下になります。
- (a) 2030年までに再生可能エネルギー容量を世界全体で3倍にし、石炭の使用を減らす努力を加速する
- (b) 石炭火力発電の段階的廃止に向けた取り組みを加速化させる
- (c)今世紀半ばより前、あるいは半ば頃までに、ゼロ・カーボン/低炭素燃料を活用した、ネットゼロ・エミッションのエネルギー・システム構築に向けた取り組みを世界的に加速する
- (d) 公正で秩序ある衡平な方法で、エネルギーシステムにおける化石燃料からの脱却を図り、この重要な10年間に行動を加速させ、科学に則って2050年までに(温室ガス排出の)実質ゼロを達成する
- (e) 再生可能エネルギー、原子力、さらに、CCUS(炭素回収・利用・貯留)のような温室効果ガス排出削減・除去技術、特に排出削減が困難なセクターにおける排出削減・除去技術や低炭素水素製造のための技術を加速させる
- (f) 2030年までに、世界中の、特にメタンの排出を含め、二酸化炭素以外の温室効果ガスの排出を加速的かつ大幅に削減させる
- (g) インフラ整備やゼロエミッション車・低排出車の迅速な導入など、さまざまな手法で道路交通における排出削減を加速化する
- (h) エネルギー貧困や公正な移行に整合しない非効率な化石燃料補助金をできるだけ早期に廃止する
石炭火力からの段階的削減については、COP26(2021年、英国グラスゴー)で合意されていましたが、今回、「化石燃料」と枠を広げた削減に合意したことは、確かに歴史的転換点となったと言えます。とはいえ、この10年間に化石燃料を「段階的に廃止」するための明確な呼びかけがないこと、そして石炭、石油、ガスの生産と消費を継続することを可能にするかもしれない「数々の抜け穴」が含まれていることから、合意の不十分さを訴える国々もあります。
また、段階的廃止は「迅速かつ、公平、完全で、資金的裏付けがある」ものでなければならないとして、途上国が化石燃料に対する世界的な取り組みの一翼を担うには、資金面・技術面の支援や人材育成が不可欠との指摘もあります。
2)適応に関する世界全体の目標(GGA)
もうひとつCOP28の焦点となったのは、適応に関する世界全体の目標(GGA)です。「緩和」が気候変動の影響を軽減させるための対策であるのに対し、「適応」は気候変動の影響に備えるための対策です。GGAはパリ協定に定められており、緩和(排出削減)に比べると注目度や資金規模も小さいことが否めない適応について、具体的な目標を設定し、取り組みを強化していこうというものです。COP26で2年間の作業計画(GlaSS)が立ち上がり、COP28でその議論が終了することになっていました。GGAは、達成状況がグローバル・ストックテイク(GST)にも反映されることになっている重要なものです。しかし、COP28では目標の設定方法や資金について意見が割れ、交渉が難航。GGAの交渉結果がGSTにも影響するため、会議後半は交渉の行方に注目が集まりました。延長した最終日になってなんとか2030年までの分野別(水、食糧、健康、生態系、インフラ、貧困撲滅、文化遺産)の目標について合意されましたが、資金支援については一般的な呼びかけにとどまるものとなり、GGAの議論を継続する特定の議題項目の設定には合意されませんでした。今後は、2年間の作業プログラムに取り組み、どのような 「指標 」を用いれば、将来的な適応度合が図れるかを確立していくことになります。
グローバル・ストックテイクと国別目標(NDC)の引き上げ
グローバル・ストックテイクは5年ごとのプロセスで、パリ協定の1.5℃目標に対する進捗状況をチェックし、その結果を反映させる形で、各国が「国が決定する貢献(NDC)」を強化し続けていくことになります。COP28直前に発表されたグローバル・ストックテイクの技術的対話の報告書では、世界の温室効果ガス排出量を2030年までに2019年比で43%削減する必要があると示す科学に基づき、現状の取組みでは不十分であることが示されました。COP28の成果文書は、この点を踏まえ、次期NDCの策定にあたり、2023年4月に発表されたIPCC第6次評価報告書(AR6)で示された世界全体で必要な削減水準(2035年までにGHG排出量を2019年比で60%削減が必要)を考慮することがもりこまれました。締約国は、次期NDC策定にあたり、自国の排出削減目標について、より野心的な目標を打ち出すことが求められています。
COP28を振り返って
COP28の最初で最大のポイントは、中間報告に記したように、初日に気候変動の影響による損失と損害を防ぎ、救済するための基金ー損失と損害(ロス&ダメージ)基金ーの運用ルールについての合意が成立したことです。採択されるとすぐに基金へのコミットメントが開始され、既に総額7億米ドルを超えています。国連防災機関(UNDRR)と国連プロジェクト・サービス機関(UNOPS)がサンティアゴ・ネットワークの事務局を務めることにも合意をしたことから、気候変動の影響に対して脆弱な発展途上国への技術的支援が促進されると期待されます。
多くの国が望んでいた化石燃料の段階的廃止の明言には至りませんでしたが、今まで世界経済を支えてきた化石燃料からの脱却に言及したことは大きな成果でしょう。各国のエネルギー転換を強いるものではありませんが、国内外で多数の化石燃料事業に関与している日本も、世界的なエネルギー移行の取り組みに寄与する必要があります。
COP29は2024年11月11日から22日にアゼルバイジャンで開催され、その後のCOP30は2025年11月10日から21日までブラジルで開催されることも決まりました。
国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局長のサイモン・スティル氏が閉会のスピーチで述べたように「この結果は化石燃料の終わりの始まり」です。今日からでもすぐに全ての政府と企業が、このCOP28での合意を実体経済に反映させていく必要があるのです。
COP28については、JBCパートナー団体からも様々なリリースが発信されていますので、そちらもご参照ください。
関連団体からのリリースほか
WWF Japan:COP28 結果報告(リンク)
気候ネットワーク:【プレスリリース】気候崩壊の始まりに直面し開催されたCOP28 1.5℃目標の実現に向けて脱化石燃料に向けて踏み出す – 改めて問われる日本のエネルギー政策(2023年12月13日)(リンク)
FoE Japan:COP28 ドバイ会議(リンク)
グリーンピース・ジャパン:COP28、初のグローバル・ストックテイクで一進一退ーー損失・損害基金の進展を評価、2030年までに脱・化石燃料を加速へ(リンク)
自然エネルギー財団:[コメント] 化石燃料からの脱却と自然エネルギー3倍化の実現を:COP28決定をどう受け止めるべきか(リンク)
350.org Japan:【声明】COP28合意、化石燃料からの脱却と再生可能エネルギー3倍を求める(リンク)
関連サイト
United Nations: COP28 Agreement Signals “Beginning of the End” of the Fossil Fuel Era(英語リンク)
Global Climate Action NAZCA: COP28(英語リンク)
参考
COP28: Key outcomes agreed at the UN climate talks in Dubai(英語リンク)
The Energy Mix: BREAKING: Transition Out of Fossil Fuels, Dawn of Renewables as COP28 Concludes in Dubai(英語リンク)