8月6日、日本各地に住む16人の若者たちが、気候危機に脅かされることのない未来のため、日本の主な火力発電事業者10社に対し、少なくともIPCCが示す水準までCO2排出量を削減することを求める民事訴訟を名古屋地方裁判所に提起しました。
政府や企業に気候変動対策の強化を求める訴訟(気候訴訟)は世界で相次いでおり、米国モンタナ州や韓国での気候訴訟のように、将来、今以上に気候変動の影響を受ける若者が原告となる事例も増えています。弁護団によると、日本で若者による全国規模の気候訴訟が提起されたのは初めてのことです。
今回の「明日を生きるための若者気候訴訟」(略称:若者気候訴訟)の原告となったのは、北海道、東北、関東、関西、中国、九州などの地域に住む10代~20代の16人です。気候変動による悪影響は若者世代の人権を侵害しているとして、気候危機に脅かされない明日を生きるために、気候変動の原因となるCO2の大量排出を続ける火力発電事業者10社に対し、科学に基づく排出削減を求めています。
被告となった10社は、JERA、Jパワー(電源開発)、神戸製鋼所、北海道電力、東北電力、北陸電力、関西電力、中国電力、四国電力、九州電力です。10社を合わせたCO2排出量は、日本全体のエネルギー起源CO2排出量の約3割に及びます。
国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、地球の平均気温上昇を産業革命前から1.5℃以下に抑えるには、世界のCO2排出量を2030年までに48%、2035年までに65%削減(2019年比)する必要性を指摘しています。訴状によると、IPCCが求める水準の排出削減は国際社会の公序であり、先進国日本の大規模排出事業者である被告らにおいても、最低限の義務とも言えます。しかし被告10社が掲げる削減目標はこの数値に達していません。削減手段も水素・アンモニア混焼、CCS、原発再稼働に依存するなど不確実で実現性に欠けています。さらに、ゼロエミッション火力の実現を前提に、CO2排出量の多い石炭火力を2050年まで稼働し続けようとしています。このような被告企業の姿勢は、自社の排出削減の水準に関する注意義務(duty of care)違反に当たると原告らは主張しています。
提訴後の記者会見で原告らは、「化石燃料産業が、短期的な利益のために私たちの未来を破壊することを許してはならない」「地球を今の状態のまま将来の世代に残すために、今できることをすべてやりたい」などと、提訴した理由を述べました。
弁護団共同代表の浅岡美恵弁護士は「全国で初めての本格的な気候訴訟といえる。この訴訟を通じて皆さんと一緒に考える場をつくっていきたい。」と話しました。
裁判の日程や報告会など、若者気候訴訟に関する情報は公式ウェブサイト(https://youth4cj.jp/)に掲載されています。この訴訟に踏み切った若者たちの声を通じて、気候危機対策の重要性に関心が集まり、被告となった企業による確実な気候変動対策につながることを期待します。
明日を生きるための若者気候訴訟 ウェブサイト
関連情報:
気候ネットワーク 気候訴訟情報ページ「気候訴訟―司法を通じて気候変動問題を解決する」