9月5日の「クリーン・コール・デー」に合わせ、9月4日に「第34回クリーン・コール・デー国際会議」、翌9月5日に「エネルギー安全保障と脱炭素化シンポジウム2025」が開催されました。今回の会合では米国、インド、中国、豪州、ポーランド、マレーシア、南アフリカ等の主要な石炭の生産および消費国の関係機関・企業、そして国際エネルギー機関(IEA)、グローバル CCS インスティテュート(GCCSI)、東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)、世界石炭協会(FutureCoal)、ASEAN エネルギーセンター(ACE)、欧州発電協会(VGBE)等の国際機関、さらに日本の経済産業省及び有識者から多くの発表が行われました。
両会議を主催した一般財団法人カーボンフロンティア機構(JCOAL)は、2023年まで一般財団法人石炭フロンティア機構という名称であり、国際的な石炭供給の増大や石炭需給の安定のために設立されていた政府系団体が再編統合されて設立された経緯があります。従って今回の会合の結果を受けて取りまとめられたJCOALステートメントも、将来においても継続的な石炭利用が必要であるとの見解を強調する内容となっています。
しかし、実際の発表内容や会合中の発言にはJCOALステートメントからはわからない、興味深い傾向が見られましたのでご紹介します。
(1)新興国の脱炭素社会実現に向けた強い意欲
今回の会合ではインド、中国、そしてASEAN(東南アジア諸国連合)諸国など石炭を産出し、現状の電源構成において石炭依存の高い国や地域からの発表があり、石炭火力からの脱却の困難さについて述べられていました。しかし、それらの発表や質疑応答の中では、気候変動を食い止めるため脱炭素社会を実現していくことは前提であり、たとえ困難であろうとも、再生可能エネルギーの導入拡大を通じて温室効果ガスの排出を削減していく意欲が繰り返し表明されていました。
(2)日本の根強い石炭依存体質
新興国による脱炭素社会実現の意欲を示す発表とは対照的であったのが日本の政府関係者や有識者、企業からの発表や発言です。ロシアのウクライナ侵攻、トランプ政権の誕生、AI利用の拡大に伴うデータセンターの電力需要増など、この数年で顕在化してきた事象を免罪符に、石炭利用の継続を正当化する発表や発言が相次ぎました。例えば一部の有識者からは、パリ協定の1.5℃目標やそこからのバックキャスティングを放棄するべきとの主張が繰り返されました。また、企業の脱炭素化技術についての発表でも石炭利用の継続を正当化する内容が目立ちました。
(3)石炭関連産業の経済合理性の低下
今回の会合では国内外の石炭の採掘や輸送に関わる企業や業界団体からも多くの発表がありましたが、その発表の多くが日本政府や企業からの投資を求める声でした。石炭需要は今後世界的に減少することが予想されており、いかに事業継続や設備投資に必要な資金を確保していくかに苦慮していることが発表からも感じられました。
まとめ
世界的な電力需要は今後も堅調な伸びを維持すると見られていますが、再生可能エネルギーの規模も世界で急拡大しています。確かに、再生可能エネルギーの導入拡大に際して課題に直面している国もありますが、それでも世界の国々では脱炭素社会の実現に向けて着実に努力を積み重ねている姿勢が今回の会合で見られました。一方で日本からの発表や発言は石炭依存からの脱却が困難な現状を追認するだけで、脱炭素社会の実現に向けた取組を半ば放棄しているように見受けられました。2050年ネットゼロを掲げながら気候変動問題への対策をおざなりにする態度は、およそ先進国としてふさわしいものとは言えません。脱炭素社会の実現に向けた、より真摯な取り組みが急がれます。
*イメージ画像はMSのCoplitで作成