経済産業省 資源エネルギー庁 資源・燃料部 燃料環境適合利用推進課の下で協議を行ってきた産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会 産業保安基本制度小委員会/総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 カーボンマネジメント小委員会は、12月8日にCO₂を回収し、地中に貯留する「CCS」 に係る制度的措置の在り方についての中間取りまとめ(案)を発表し、意見公募を行いました。
この中間取りまとめ(案)は、2050 年カーボンニュートラルの実現においてCO₂ の排出が避けられない事業分野から出るCO₂を回収し、地中に貯留することを解決策と位置付け、CCSに係る制度的措置の在り方について検討の結果をまとめたものです。しかし、CCS事業は日本国内に安定した貯留適地が少ないことや、将来的なモニタリングのリスク、費用といった実行面だけでなく、漏洩した場合の責任の所在なども含めた法制度にも課題を抱えており、取りまとめ(案)はこうした課題への対応に欠く内容となっています。
この取りまとめ(案)の問題点
- 発電部門におけるCCSの利用を前提として化石燃料(化石燃料由来の水素・アンモニアといった化合物も含む)の利用継続を考えており、気候変動対策としての適切性に欠ける
- CCSの必要量の算出方法自体に再検討が必要だが、そもそもCCSを前提としての火力発電の利用継続を考えるべきではない
- CCSの分離・回収、輸送、貯留に係る技術は確立できておらず、その安全性(貯留地の安定性、高濃度CO₂漏洩による健康への影響など)も確保できていないので、この技術に依存するべきではない
- 事業の影響および圧入後のモニタリングに関する評価および責任の所在が明確にされていない
- 法制化における内容がいずれも確定できるものでないにも関わらず、CCS推進のための財政および法的支援を先行させるものである
以下に具体的な問題を記します。
●現時点で成功例の少ないCO₂貯留(メカニズムの問題)
そもそも、世界的にもCCSの事例は少なく、事業として成功しているとは決して言えない状況です。数少ない事例は石油増進回収法(EOR)を採用したものであり、世界各地で実証実験などが進んではいるものの、コストやCO₂の恒久的地層隔離に関わる問題から中止となったものもあり、大規模かつ長期にわたるCO₂貯留は実現していません。
日本CCS調査株式会社(JCCS)の調査によれば、国内11地点に約160億トンの貯留可能(とりまとめ P5)と推定されていますが、具体的な場所の記述はなく、かつどのような調査を行って結果、長期安定的に貯留可能かと判断した具体的なデータは示されていません。また、候補地を絞り込む際には、(a)貯留容量(Capacity)、(b)圧入性(Injectivity)、(c)封じ込め能力(Containment)、(d)健全性(Integrity)の4要素を加味するとありますが、周辺地域あるいは海域への影響、周辺住民あるいは影響を受ける産業従事者(漁業など)への配慮、注入に要する費用の評価なども含めるべきでしょう。
●リスクマネジメントーモニタリング体制と責任の所在
貯留地の長期貯留期間のモニタリングについては、貯留事業者に対して、貯留されたCO₂のモニタリングを義務付けるべきとの記載(P18)はあるものの、事業の終結とその後の対応(P14)にはCO₂の地中への注入が終了した時点で「事業者は管轄当局から許認可を受けた上で、貯留サイトの閉鎖を行い、管轄当局に対して管理業務を移管する」との記載があり、責任の所在が不明瞭です。事業に対し一貫して責任を持つのが管轄当局なのかは明記されておらず、モニタリング体制として不十分な感が否めません。事業者にも一定の責任を残すことを明確にし、長期的なリスクを認識した上で事業に関わる体制を構築すべきです。
●CCSに係る制度的措置の在り方
CCS事業には、分離・回収、輸送、貯留の各段階で複数の事業者が関わることになります。特に、国外サイトへのCO₂輸送、貯留となれば(すでに先進的CCS事業7件の中にマレーシアでの貯留が含まれている)、国を超えた制度の設計が必要となります。この中間とりまとめにも記述がありますが、現時点ではCO₂を半永久的かつ安定的に貯留することを可能とする法的な仕組みは存在していません。国内での試掘権及び貯留権についてだけでなく、国際的な制度の検討も必要です。同様に、海洋汚染等及び海上災害についても国際的な法制度を踏まえた整備が必要となります。
また、「貯留事業を安定的に行うためには、事業を行う上で懸念されるリスクに適切に対応し、公共の安全を維持し、災害の発生を防止することが不可欠である。(P20)」とありますが、事業のリスクおよびその対応に関する情報を公共に開示するとは示されていないことも懸念されます。
●CCSのコスト
CCS事業においてコストも重要な要素ですが、IPCCの第6次評価報告書第3作業部会報告書ではCCSはライフタイムコストが高く、2030年段階での排出削減に貢献しない技術と書かれています。中間とりまとめに記されている国内貯留での試算だけでなく、国外貯留も含め、より具体的な根拠の明確な試算を行ってライフタイムコストを提示すべきでしょう。
CCSの事業環境を整えるためにも莫大な費用が必要です。政府は、GX分野別投資戦略を踏まえ、国際競争力ある形でCCS事業を推進できるように先行投資支援と、CCSに係る制度的措置を中心とした事業環境整備を進め(P31)、2030年CCS事業化を目指していく(P35)と述べていますが、国際エネルギー機関(International Energy Agency)の報告書「World Energy Outlook 2021」に示された世界全体のCCSの年間貯留量から日本の排出量割合分に応じてCCS年間貯留量を計算し、これを目標として設定することには意味がありません。
政府は、CCSは排出削減の難しいセクターにおける最後の砦として重要視するだけでなく、CCS事業を前提に化石燃料の利用継続を含めたエネルギー政策を考えています。CCSが技術的に実現できたとしても、どこにどの程度のCO₂を貯留できるかも分からない策を当てにして、CO₂排出の削減を怠るのは愚行としか言えません。
中間取りまとめ(案) CCSに係る制度的措置の在り方について(PDF)
最後に関連情報ですが、同じタイミングで、環境省水・大気環境局海洋環境課に設置されている中央環境審議会水環境・土壌農薬部会 海底下CCS制度専門委員会も「今後の海底下への二酸化炭素回収・貯留に係る海洋環境の保全の在り方について(案)」に関する意見の募集を行っていました。こちらでは、海底下CCSに係る現行の制度および海洋環境の保全について論じていました。
今後の海底下への二酸化炭素回収・貯留に係る 海洋環境の保全の在り方について (案)(PDF)
いずれの内容についても、こうした重要なエネルギー政策に関する方針の決定には国民理解が不可欠と表面的には取り繕っていても、パブコメを年末年始にかけてひそやかに行っていた時点で、国民理解を軽視しているとしか思えません。
公募に関する情報
- 産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会 産業保安基本制度小委員会総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 カーボンマネジメント小委員会中間取りまとめ(案)CCS に係る制度的措置の在り方についてに関する意見公募(2024年1月9日13時0分 締め切り)(リンク)
- 「今後の海底下への二酸化炭素回収・貯留に係る海洋環境の保全の在り方について(案)」に関する意見の募集(パブリックコメント)について(2024年1月4日0時0分 締め切り)(リンク)
参考意見
気候ネットワーク:
【意見書】水素・アンモニア政策小委員会/脱炭素燃料政策小委員会/水素保安小委員会中間とりまとめ(案)に対する意見(2023年12月26日)(リンク)
【意見書】産業保安基本制度小委員会/カーボンマネジメント小委員会「中間取りまとめ(案)CCS に係る制度的措置の在り方について」に対する意見(2024年1月5日) (リンク)
関連資料
自然エネルギー財団:CCSへの過剰な依存が日本のエネルギー政策を歪める(リンク)
気候ネットワーク:【ポジションペーパー】 CO₂ 回収・利用・貯留(CCUS)は魔法の杖ではない:日本においてもアジアにおいても気候変動政策の柱にはなり得ない(2023年1月)(リンク)
FoE Japan:CCS(炭素回収貯留)ってなに?(リンク)