世銀2016年度版レポート「大気汚染のコスト:行動のための経済的事例の強化」
2016年9月8日、世界銀行(世銀)はワシントン大学健康指標評価研究所(IHME)との共同研究の結果として「大気汚染のコスト:行動のための経済的事例の強化(原題:The Cost of Air Pollution: Strengthening the economic case for action)」を発表しました。今回のレポートで世銀は、2013年に世界の約5.5億人が、大気汚染によって早期死亡していると推定した上で、大気汚染が著しい健康リスクをもたらすだけでなく、経済発展の足かせにもなっていると指摘しました。具体的には、2013年の大気汚染に起因する早期死亡による労働所得の損失は全世界で総額約2250億ドル、厚生上の損失は約5兆1100億ドルと算定されています。
今回のレポートの目的は、大気汚染に起因する早期死亡による経済的損失を算出し、各国政府の汚染削減に向けた野心的な取り組みを後押しすることだと述べられています。
大気汚染コストは1990年から増加傾向にありましたが、1990年から2013年の間、各国で目覚ましい経済発展が進み健康状態が改善されたにもかかわらず、労働所得の損失は40%も増加し、厚生上の損失は2倍に膨れ上がりました。このことは、大気汚染が以前にもまして経済の重荷となっていることを示しています。
日本については、大気汚染由来の死者数は64,428人、労働所得の損失は44億1400万ドル、厚生上の損失は2403億5300万ドル(以上全て2013年度)と見積もられています。
世銀は、各国の環境省・厚生労働省に対し、今回のレポート結果を重く受け止め、早急に共同で対策に乗り出すことを求めています。
環境大気汚染と屋内空気汚染
世界各地を見ると、南アジア、東アジア、太平洋地域における厚生上の損失がGDPに占める割合が大きくなっています。図1は、2013年の地域別大気汚染による厚生上の損失を示したものです。南アジアとサハラ以南のアフリカでは、固形燃料を用いた調理により生じる屋内空気汚染が、厚生上の損失の最大の原因とされました。一方、他の地域においては、微小粒子物質(PM2.5)による環境大気汚染が損失の主原因であると述べられています。
環境大気汚染は1990年と比べ、より深刻になっています。1990年以降、総体的な健康状態の改善により多くの国で大気中のPM2.5を原因とする年齢調整死亡率は減少しているものの、人口増加にともない汚染に曝露する人数が増加した結果、早期死亡者数は増加しました。2013年、PM2.5が原因の早期死亡者数は、1990年度比で30%増の290万人と推計されています。
2013年には世界人口のおよそ87%が、世界保健機関(WHO)の定める大気質ガイドラインの汚染を上回る地域に居住しているとレポートは指摘しています。PM2.5による大気汚染による労働所得の損失は、1990年度の1030億ドルから、2013年度は1440億ドルに増えています。
また、世界人口の約5分の2が固形燃料を使った調理による屋内空気汚染による2013年の曝露人数は1990年より減少し、人口10万人当たりの年齢調整死亡率は38%減少しましたが、死亡者総数は、1年あたり約290万人のまま推移しており、2013年の低および中所得国における厚生上の損失は1兆5200億ドル、労働所得の損失は940億ドルに達しています。
小児・高齢者への影響
さらに、このレポートは小児および高齢者への影響も指摘しています。
2013年における大気汚染が原因の死亡率が、若年成人で1%未満なのに対し、5歳未満の小児が5%、50歳以上の成人が10%となっており、小児および高齢者は大気汚染の影響を受けやすいことが示されています。
この報告書は、世界の大気汚染による経済的損失が膨大であることを伝えています。地球温暖化対策だけではなく、経済的な視点から見た健康被害対策としても大気汚染の改善が急務でしょう。
出所:
REPORT “The Cost of Air Pollution: Strengthening the Economic Case for Action” (2016年9月8日発行)
*報告書(英文)はこちらからダウンロードできます。
参照:
The Word Bank PRESS RELEASE
Air Pollution Deaths Cost Global Economy US$225 Billion, 8 September, 2016(英語リンク)