2015年7月16日、アフリカのモザンビーク農民連合から来日した3名による現地の石炭開発の状況報告が行われました。モザンビークでは、日本の支援による原料炭を中心にした石炭開発事業が進められています。現地の報告からは、石炭産出国で起きていることと日本のつながりを考え直すさまざまな課題が浮かび上がってきました。
急速に拡大するモザンビークの石炭掘削プロジェクト
モザンビーク全国農民連合(UNAC)政策提言・国際連携担当のヴィンセンテ・アドリアーノ氏によれば、モザンビークの石炭埋蔵量は約60億トンとされ、10年ほど前から石炭開発が急速に拡大しています。政府に申請されている計画は約1000件にのぼり、その多くにブラジル企業などの外国資本が入っています。石炭事業のために収容される土地面積も増加しており、開拓業者の1つRiversdale社が権利を有する土地の総面積は127,900ヘクタールにも上ります。これだけでも既に広大な面積ですが、実際に石炭事業のために差し押さえられている土地の範囲はさらに広がっていると推測されます。
各地で石炭生産と輸出のための物流経路確保を目的とした事業が進められています。主要な輸送ラインの1つに内陸の石炭採掘地から大西洋に面した大規模な港湾施設(ナカラ港)をつなぐ「ナカラ回廊鉄道」がありますが、この回廊の整備に日本企業が関与しています。2014年12月に三井物産は、モザンビークでの石炭生産に加え、鉄道と港湾の開発・運営に参入すると発表しました。ナカラ回廊を含めた計4本の「動脈」計画のうち、2本は既に運用が開始されており、残り2本も数年以内に動き出す予定です。発掘された石炭は、まずトラックで積載場まで運ばれ、そこから鉄道に積み替えて港まで運ばれます。この鉄道は建設当初の話が一変し石炭輸送に特化されたため、住民が利用することはできません。
石炭開発による地域住民の生活環境の悪化
アドリアーノ氏によれば、これらの石炭開発や鉄道整備により土地を収用された地域住民も多く、6か所のコミュニティーで2200家族以上、1万人を超える地域住民が立ち退きを要請されたということです。さらに、石炭の発掘、運搬による環境破壊や健康被害も発生しています。モザンビーク国内では人口増加にともなってHIVなどの感染症患者が増加し、インフレで物価が高騰するなど悪循環に陥っています。そのような環境の中、住民は住む家も耕す畑も取り上げられ、石炭満載で走る列車の横を歩いて移動しています。
UNAC副代表のアナ・パウラ・タウカレ氏も、鉱山開発が住民にもたらした影響について言及しました。地域住民たちは、鉱山開発のために無償労働を提供させられた挙句、奪われた生活手段への保障を受けられませんでした。開発計画に疑問を持つことすら封じられ、鉄道建設に反対した住民は警察に暴力を受けたとのことです。また、移住先に以前と同等の住居を提供されるとの約束を反故にされたり、別の場所に移住できても周辺地域との接触を絶たれたりするなど、まるで植民地時代に逆戻りしたような状況だと言います。土地の植物が収穫できなくなり、移住先の土質は悪くて以前と同じような農業生産は望めず、気候変動による降雨パターンの変化にも大きな影響を受けています。石炭事業には外部から人材が流入したため、地域住民の雇用は生まれませんでした。農民の生活は鉱山開発によって大きな打撃を受けていますが、これはテテ州に限らず北部にも広がっており、石炭鉱山開発は住民を助けることなく、困窮させているのが現状です。
UNACナンプーラ州支部UPC-N代表コスタ・エステバン氏も、住民の生活が大きく変わってしまったことを指摘しました。家も農地も失いナカラ回廊沿いにさまよい歩く住民の姿、失われたカシューナッツやマンゴなどの植物の恵、石炭輸送にともなう微粉末の飛来などによる健康被害、鉄道線路を横断しようとした子供の事故などがその例です。横断事故については知事に線路を安全に渡る方法を考えて欲しいと要望を伝えていますが対応されていません。
これからの課題
モザンビーク住民の生活を守り、より豊かにすることを考慮することなく進められている開発は、いったい誰のためなのかとの問いが浮かびます。現地住民は、農業を基盤にした生活が今後も発展していくために、石炭事業とどのように折り合いをつけていけるのかを懸念していますが、テテ州の6割の面積に掘削権を与えるようでは、農村の生活は崩壊し、格差が広がるばかりです。石炭開発の資金の一部でも農業開発などに回して格差縮小策を図るなど、地域住民が危険にさらされ、他の一部の人間だけが豊かになる構図は変えていかなければなりません。
輸送ラインは、昨年12月に開通したナカラ回廊鉄道と2017年に完成予定のベイラーライン(テテ州からベイラー港を結ぶライン)に加えて、他2本の新線建設予定が出来ています。しかし、輸送ラインは輸出を目的として建設されているため、現地にお金が落ちず、雇用も増えない課題に突き当たり、現地の経済成長と農業促進と石炭開発事業とをどう折り合わせるのかが課題です。
日本は、ほとんどモザンビークから石炭を輸入していませんが、こうしたインフラ整備に官民の支援を行っていることから、無関係ではありません。世界各地における資源採掘から最終的に石炭が燃焼されるまでに、様々な社会的な問題を引き起こし、環境汚染をもたらし、住民の生活を破綻させている状況を総合的に捉えることは、石炭を利用する側の責任でもあります。モザンビークの石炭をめぐる現状からは、日本の石炭開発推進の方針を問い直すさまざまな課題が見えてきます。
参照:
オックスファム・ジャパン
今日本が選ぶべき道は石炭なのか?-モザンビークの現地報告から日本の石炭推進を考える-
三井物産 2014年ニュースリリース
モザンビークにおける炭鉱及び鉄道・港湾インフラ事業への出資参画について