近年、水素を燃料に電力を供給する「水素発電」を2030年頃のエネルギー計画に導入しようとする取り組みが進められています。
そんな中、2017年12月に、世界で初めてとなる、市街地の施設に水素で発電した電力や熱を供給する実証施設が神戸(人工島ポートアイランド内)に完成したと報じられて話題になりました。そして2018年2月上旬には、この発電所で水素ガスタービンを使って発電された電気を周辺の公共施設に送る実証実験を開始しています。
国は、水素をエネルギーとして利用する「水素社会」への取り組みを推進しているところですが、神戸市も「水素スマートシティ神戸構想」を掲げ、水素利用を官民一体で進めています。しかし、無色・無臭・無害な水素を作るために、黒くて汚く有害な石炭の影が見え隠れしています。
水素利用の何が問題?
水素自体は発電するために燃焼させてもCO2を排出しませんが、その水素を製造するために化石燃料(石炭、天然ガス)が使われることがあります。「水素スマートシティ神戸構想」のなかでは「石炭由来の水素利用が含まれている」ことが問題なのです。この構想の最終段階では、オーストラリアの水分量が多い褐炭を加熱し、不完全燃焼状態にすることでガス化。そこから水素を取り出し、液化して日本へ持ってくるというものです。褐炭は取り扱いが難しく輸出に不向きな性質があり、おもに採炭国内で利用されています。一方、気化しやすいという性質を持ち合わせており、そこに目をつけた人たちがいるようです。
石炭を燃焼させたときに排出されるCO2をどう処理するかについては、技術的な検討が進められていますが、CO2を回収、地下に注入・貯留するCCSと言われる技術はその一つです。産炭国オーストラリアの枯渇傾向にあるガス田においてCCSを実施することで、石炭輸入国である日本国内において水素を燃焼させても「CO2排出はゼロ」と考えるというもののようです(地中に閉じ込めたCO2が漏れ出すことも考えられるのに…)。神戸市は、こうした水素を「カーボンフリー水素」として認証、利用を推進し、水素利用によるCO2排出削減量を「排出枠」として売買できる仕組みを築く方向で検討を行っているようです。
神鋼も「水素利用が温暖化対策」
問題となっている、神戸製鋼の石炭火力発電所増設計画と水素も無縁ではありません。こちらでは、下水汚泥の混焼(カーボンフリー)による水素供給を温暖化対策として実施すると発表。発生させた水素を自動車に供給することで、「大気汚染の改善が見込まれる」との見解が示されています。石炭火力発電所を増設して大気汚染物質をまき散らすのに?大気汚染など、気にする様子は微塵もありません。石炭と下水汚泥を混焼させて水素を供給したとしても、僅かなCO2排出削減にしかならないことは、神戸の石炭火力発電を考える会も指摘しています。そもそも、水素利用についても、再生可能エネルギー由来のものにしていくべきではありませんか?
神戸市は「環境モデル都市」か?
神戸市は「環境モデル都市」に選ばれており、日本国内の環境政策を地域からリードする役割が期待されています。しかし、このような怪しい「カーボンフリー水素」の推進は、環境モデル都市に相応しいと言えるでしょうか?世界に目を向けてみると、石炭利用を抑制、期限を決めて脱石炭をする動きが国や地域において加速しています。石炭利用の終わりをいつにするかを決めている一方で、「石炭利用を延命する施策」をとっている神戸市が、あたかも先進的であるかのような形で紹介されていることは不可解でなりません。単に、石炭の利用方法がこれまでと異なるというだけではないでしょうか?石炭由来の水素を使っていることが石炭の二次利用であるとの認識はないのでしょう。化石燃料由来の水素利用を推進し、神鋼の石炭火力へも厳しいメッセージを出さない神戸市は、「石炭利用推進都市」という称号がお似合いでは?
以下、関連した報道と記事です。
【報道】
水素が燃料、市街地に電力供給 神戸に初の施設完成 18年2月から実証運転(日本経済新聞 2017/12/10)
・神戸市、水素発電でCO2排出枠 企業の購入可能に (日本経済新聞 2017/4/4)
・褐炭は世界の原料市場を変えるか(日本経済新聞 2011/8/22)
【記事】
神戸の石炭火力発電を考える会 「第3次要請書」 (2017/10/6)
参考情報
・未利用資源(褐炭)をクリーンエネルギーに変換する水素エネルギーサプライチェーン(川崎重工プレスリリース)
・豪州産のCO2フリー水素を東京オリンピックに、輸送船を建造・運航へ(スマートジャパン 2017/1/17)
・NEDO 水素社会構築技術開発事業