世界で加速する“Divestment(ダイベストメント)”


世界では、大手銀行や金融機関が相次いで炭素集約型の事業への投資を減らし、低炭素型投資へのシフトしようとする動き“Divestment(ダイベストメント)”が進んでいます。COP21パリ会議期間中には、世界各国の財団、大学機関、公的年金基金など500以上の機関が化石燃料関連の投資からの引き上げを決定しており、その額は、3.4兆USドル(約420兆円)に上っていると報告されました。

欧米を中心に多くの金融機関などが、将来の気候変動リスクを軽減させるべくダイベストメントの動きを加速させているわけですが、リスクは気候変動だけではなく、金融リスクも伴います。CO2の排出削減が強化されれば化石燃料関連事業の資産や、炭素集約型事業への投資そのものの価値が減損することになります。このようなリスクを抱える資産はStranded Asset(座礁資産)と呼ばれ、このリスクが投資行動を変化させています。
これに対し、日本の経済・金融関係機関にはその動きはまだほとんど見受けられません。国内ではなお、「日本の火力発電技術は世界一の高効率でCO2削減に貢献できる」というロジックが今でも通用してしまっている状況です。しかし、「パリ協定」は、こうした状況をいつまでも続けることは不可能であることを告げています。国内では、今でも「省エネ大国」で先進的だと信じ込んでいるのとは裏腹に、石炭火力発電に依存しさらに推進しようとする日本は、世界に大きく遅れ、“舵を切れない国”だと厳しい目で見られています。

「パリ協定」を受けて、日本のエネルギー・石炭政策がどう変わるのか。注目していかなければなりません。

世界の主なダイベストメント(注)例

  •  オランダ最大の銀行INGが新設の石炭火力発電所と掘削計画からの撤退を表明(2015/11/28)
  •  フランスでは19都市がダイベストメントを承認したと発表。さらにフランス国民議会が、投資家、企業(国有企業を含む)、地方自治体に対して化石燃料への投資を行わないよう奨励する決議案を採択(2015/11/25)
  •  サリー大学、ロンドン芸術大学、オックスフォード・ブルックス大学を含む10の大学は合わせると200億円ちかい基金を運用するが、パリ会合に先立ち基金を化石燃料から撤退する手続きに入ると発表(2015/11/10)
  •  世界最大のドイツの保険会社アリアンツが、石炭掘削企業などからの融資撤退を発表(2015/11/24)
  •  米国第3位の規模の銀行であるシティグループが石炭採掘プロジェクトへの資金削減を表明(2015/10/5)
  •  ノルウェー政府年金基金(GPEG)、石炭火力関連株投資を全て中止:政府年金基金が保有する100兆円規模の運用方針として、石炭火力関連株を全部売却することを議会の与野党一致で決定(2015/5/27)
  •  英国オックスフォード大学全体で、石炭やオイルサンド事業から収益の大部分を得ている企業や「社会的・環境的リスクが高いセクター」への投資を永久に禁止する方針を打ち出した。英国ではケンブリッジ大学が同様の方針決定を先行している。(2015/5/18)
  •  米国大手銀行バンクオブアメリカが、石炭関連融資削減の方針を公表:石炭産業への資金提供を大幅に減らす新方針「コール・ポリシー」を採択し、国際的金融機関としては最初の「脱化石燃料銀行」となった。(2015/5/7)
  •  ハーバード大学では、卒業生も交えた学生たちが大学に対して、360億ドル規模に上る同大の寄付基金から化石燃料への投資を打ち切るように求めている。学長が、投資引き上げの約束を拒んだので学長室封鎖に向けた小競り合いにまで発展した。学内の学生運動(SJSF: Students for a Just and Stable Future)は、石油、石炭、天然ガスに関わる200社をターゲットにダイベストメント運動を行っている。(2015/4-)
  •  米国のスタンフォード大学は、学生達の要求を聞き入れ、温室効果ガスの排出の少ないエネルギーへの転換を視野に、今後は石炭掘削会社への直接投資を行わないことを決定。化石燃料ゼロ・スタンフォード(Fossil Free Stanford)として化石燃料企業からの完全な投資撤退に向けて運動を継続。(2014/5/6)

(注) ダイベストメント(Divestment)=投資撤退
ダイベストメントとは、投資(インベストメント)の逆で、非倫理的または道徳的に不確かだと思われる株、債券、投資信託を手放すことを意味する。ダイベストメント運動では、資産運用者に対して特定の保有株式、債券、投資ファンドの売却を呼びかけていく。ダイベストメントの動きは、欧米の大学に端を発し、年金基金や様々な機関・団体に広がっている。

関連報道

Bloomberg, Want to Burn Coal and Save the Planet? Japan Touts a Solution (2015/11/10)
日経 化石燃料産業への投資撤退、資産規模420兆円 環境団体発表(2015/12/3)

関連情報

大学、都市、宗教団体、年金基金や金融機関など化石燃料からのダイベストメントを約束する機関が増えており、「No!化石燃料」のサイトではダイベストメントに賛同する団体のリストが掲載されている。