2019年8月26日、英国のシンクタンクE3Gによる、先進7か国(G7)の石炭に関する政策を評価する「石炭スコアカード2019年」が発表されました。石炭スコアカード2019は、2015年10月に初めて発表されて以降、毎年改訂を重ね、今回が第5版となります。
G7諸国における昨年の動きを見ると、カナダ、イギリス、ドイツで石炭政策および市場動向の改善が見られました。民間企業の動きは鈍かったものの、わずかずつながらも前向きな進展が見られるようになっています。石炭火力発電の閉鎖に積極的な政府は、脱石炭に向けた流れを一層推し進めるべく、連携した取り組みが求められています。
図1は、2019年のG7各国の石炭スコアカードです。ここに記されたランキングは、各国の市場動向と政府政策の状況、さらに脱石炭に向けた取り組みを比較評価したものです。評価ポイントは以下の3点です。
- 新規の石炭火力発電所のリスク
- 既存石炭火力発電所の閉鎖の進行状況
- その国の取り組みの国際的な影響
2018年9月と比較すると、政府政策および市場の評価の項目で順位変動がありました。
●カナダは、国際的な評価における民間部門の国際的な影響を除いて、すべての項目で明らかな改善が見られ、単独1位となりました。カナダ政府は、過去1年にわたり2030年までに石炭火力発電所を段階的に閉鎖するための様々な新しい規制を採用してきました。石炭からクリーンな発電に移行するために2億7,500万カナダドルを割り当て、対策を強化したことが国際的な評価を引き上げる結果となりました。カナダ輸出開発公社(Export Development Canada)も、石炭関連の投融資を終了させる新しい気候変動政策を採用しています。
●イギリスは、電力市場における石炭の発電量の減少が進んだことと、石炭火力発電所の閉鎖が一層進んだことが評価され、フランスを抜き2位に上昇しました。イギリスでは、カナダのような石炭を段階的に削減する(石炭フェーズアウト)ための法整備がまだ導入されていません。また、輸出信用と開発金融をどのように強化していくかもまだ検討中です。
●フランスは、2018年にカナダとの同率1位でしたが、イギリスとカナダの評価が上がったことにより、3位に順位を下げました。石炭フェーズアウトのための法整備もまだできていません。 フランスは、2019年のG7議長国であり、2019年9月の国連気候行動サミットでは、気候ファイナンスとカーボンプライシングの議論の議長を務めることになっています、脱石炭に向けた取り組みが比較的限られたものであることから、フランスの外交主導力が弱まることが懸念されます。
●イタリアはランキングで4位のままです。 国内では、現連立政権が、前政権が提出した2025年石炭フェーズアウトの期限を再確認したものの、実施についてはまだ法制化されていません。連立政権内の政治的緊張は、気候変動と石炭政策の両方におけるイタリアの国際的な影響力を減少させ、外交指導力をも弱める結果となりました。
●ドイツは、過去1年間に4項目で改善が見られ、今年はアメリカと並んで5位に順位を上げました。最も重要なことは、さまざまなステークホルダーが参加する「成長・構造改革・雇用委員会(通称「石炭委員会」)」が、遅くとも2038年までに石炭フェーズアウトに向けた助言をまとめたことです。これには、脱石炭の影響を受ける地域への移行支援も含まれています。この前向きな取り組みは法の下で実施される必要があり、国際的な気候目標に合わせるためには、フェーズアウト年を2030年に前倒しする必要があります。国際的には、ドイツ復興金融公庫(KfW)が石炭への融資からの撤退を表明しましたが、KfWの契約済ローンおよびドイツ金融大手のアリアンツ・グループに属するユーラーヘルメス信用保険会社(本社はフランス)が管理する輸出信用のすべてが対象に含まれているわけではありません。
●米国は今年のスコアカードでも5位(ドイツと同順位)に留まりました。トランプ政権による石炭関連産業への支援にかかわらず、過去1年にわたり石炭火力発電所の閉鎖が続いています。連邦政府および規制当局により逆行する政策変更が多数提出されていますが、ほとんどは法的な異議申し立てを起こされており、電力会社や州政府は石炭からクリーンエネルギーへのシフトを支援し続けているため、脱石炭の流れに実影響が及ぶには至っていません。
●日本は、5年連続でスコアカードの最下位に留まっています。G7諸国の中で唯一、国内外で新規の石炭火力発電所の建設計画を続行しています。しかし、民間企業は政府の政策より先んじており、過去1年間に約4 GWの石炭火力発電所の建設が中止されました。日本政府は、G20議長国として「質の高いインフラ」に向けた国際的な取り組みを進めることを提唱しましたが、G20サミットでも長期戦略(LTS)の策定においても、石炭火力発電所のような高炭素排出インフラを制限するために必要な策をまとめることは出来ませんでした。
石炭火力発電所の計画中止と閉鎖は続く
過去5年のG7石炭スコアカードを通じ、日本を除くG7各国で石炭火力発電所の計画中止と既存の発電所の閉鎖が継続的に進んでいることが明らかになっています。2019年には日本でも新規計画の中止が増えましたが、まだ4.5GWの計画が、計画中・アセス段階に留まっています。
また、ドイツが段階的な脱石炭の姿勢を明確にしたことにより、既存の石炭火力発電所の閉鎖に向けた勢いが高まりました。G7全体では、現在のG7諸国で稼働している石炭火力発電所の設備容量の31%に相当する118 GWが、2030年までに閉鎖される予定です。既に閉鎖された発電所および閉鎖が予定されている発電所の設備容量は合計264GWに上り、2018年9月から22%増となっています。
石炭への融資は終焉に向かう
5年間のG7石炭スコアカードの発表を通じ、公的および民間の石炭火力への融資に対する規制が最も弱いことが示されています。しかし、今後は石炭火力への融資への規制が急速かつ実質的に進む可能性が秘められています。今回の石炭スコアカード(第5版)では、G7諸国の金融機関が海外の石炭事業をどの程度支援しているかも考察しています。
公的融資は主に輸出信用と開発政策の強化により、漸進的に改善されたことが見て取れます。一方、民間部門では変化が少なく、前年と比較しても大きな改善は見えませんでした。昨今ドイツ、日本、フランス、イギリスでは、金融関係者による積極的な取り組みが講じられています。
昨年のスコアカード発表以降、公的機関および民間の両方から少なくとも30の石炭火力への融資を制限する新たな政策、または政策変更が発表されました。これは、G7全体の中でも、脱石炭を表明する機関・企業らの地理的多様性が拡大し、規模が増大していることを示しています。カナダとドイツの輸出信用機関(ECAs)、米国の大手保険会社Chubb、イタリアの保険会社ゼネラリ保険(Generali)、さらに日本の商社 伊藤忠商事と住友商事の方針転換も含まれています。
石炭の前途には壁が立ちはだかっており、G7諸国の金融機関が率先して国際的な規範を設定すべき時です。G7諸国での動きは他国の金融業界に強い影響を与えるだけでなく、政府間外交においても強い力を発揮します。 2019年の前進は疑いのないものですが、今後、いかに早くすべてのG7諸国が石炭火力への融資から撤退し、クリーンエネルギーへの転換ができるかが重要な課題です。
G7諸国は団結して脱石炭を進めるべき
全体としては、G7全体に石炭からの撤退が加速している傾向が見られ、電力部門は石炭火力発電では利益が得られないところに来ています。この状況が、より多くの国が石炭火力発電所の段階的閉鎖を進めるための国内政策方針を策定する後押しとなることが期待されます。石炭に対する政策と市場の動向に対応することにより、各国政府は協力を深め、ベストプラクティスを共有する機会を得ることでしょう。
しかし、日本は2019年のG20議長国としての機会を活用できず、いまだに石炭火力発電技術の輸出を続けています。同様に、2020年にG7の議長国となるアメリカも石炭火力発電が衰退しているという状況に背き、石炭推進の可能性をなお模索しています。
国連事務総長のアントニオ・グテーレス氏が、2020年までに新しい石炭火力発電所の建設を中止し、現在の石炭による発電容量を削減するよう各国に呼びかけていることを受け、脱石炭に積極的なG7諸国は連携して石炭火力発電からの撤退を加速させるための努力を続けなければなりません。2019年のG7議長国であったフランスは、同年9月の国連気候行動サミットでも気候ファイナンスとカーボンプライシングに関する議論の議長の役を担っています。フランスはこの機会を活かし、石炭火力への融資を終わらせるため、各国および先進的な民間企業などからの協力をまとめてくれるであろうという期待が高まっています。
関連リンク
Summary: G7 Coal Scorecard 2019 – Coal Finance Heads for the Exit
レポート(PDF)