東京湾岸に集中する石炭火力発電所新設計画:住民の反対運動が続々と発足!


全国の電力会社が東京湾岸に石炭火力発電所新設を次々と計画

千葉県で、東京湾岸に並ぶ千葉・市原・袖ケ浦の各市に大規模な石炭火力発電所建設が計画され、環境アセスメントが次々と行われている。他に、公式発表はまだないが、関西電力による計画も報道されており、4つの計画がある。このうち、市原については、事業主体である関西電力と東燃ゼネラルが今年3月23日、計画を中止すると発表した。今年1月発表の兵庫県赤穂市の火力発電所の石炭燃料転換計画中止に続くもので、近年の新設計画としては全国初の中止でもあり、励みになるニュースだった。しかし、国内最大級の200万kWの袖ケ浦と107万kWの千葉、公式発表のない関西電力の計画の計3か所の計画があることから、千葉県は国内最大規模の「石炭集中地域」と言える。

神奈川県では、横須賀火力発電所内に2基の石炭発電所を建設する計画が進んでいる。既存の石油及び天然ガスの火力発電所を全て廃炉にした跡地に建設する計画である。こちらも65万kW級が2基で計130万kWの大規模発電施設である。

計画が東京湾岸に集中する理由は、①電力需要の大きな首都圏への電力の供給しやすさ、②電力自由化後の競争で、弱体化する東京電力の管内の市場への販路を拡大するねらい、③JFEなどの製鉄所や出光興産などの石油コンビナート、古い発電所の跡地利用の動機などが考えられる。これらの計画が全て進み、稼働すると、推計で年間3222万トンものCO2が排出されることになる。これは日本の一般家庭約644万世帯のCO2排出量に相当する莫大な量であり、計画は中止されるべきである。

千葉市内のマンションでは住民の85.7%が「反対」

近隣住民にとって深刻なのが大気汚染だ。事業者は「脱硫装置などがついているので影響はない」とするが、PM2.5や水銀などは環境アセスメントの評価項目に入っていないため、その実態は不明だ。また、同時期に千葉県4ヶ所、横須賀1ヶ所全ての発電所が稼働することによる「東京湾岸複合汚染」の影響も全く評価されていない。

とりわけ千葉市では、蘇我火力発電所の計画地に隣接するJFE製鉄工場敷地側で石炭が野積みされており、現在でも粉塵飛散の被害を訴える声が強い。その上、大規模な石炭発電所建設が計画されたことに対する住民の不満は非常に大きい。千葉市内のマンションでは自治会で150世帯近い住民全戸にアンケートをとったところ、蘇我の発電所建設に反対する人が全体の85.7%にのぼった。その意見には、「現状でも粉塵の被害を受けており、これ以上の汚染には耐えられない」、「健康面での心配に加え、マンションの資産価値も下がる」といったものがある。

こうした住民の声に、事業者はどう応えるつもりなのだろうか。

<千葉市内のマンション住民による意見>

•ただでさえ家の中まで真っ黒な粉塵が飛散し迷惑しているのに、これ以上の大気汚染には耐えられない。

•周辺住民の健康被害について、調査と対策を徹底して欲しい。

•窓を一日中開けていると粉塵が大量に入ってくるのに、更に汚染物質が飛散されると住めなくなる。

•貯炭場「現在も含め」全て、建屋内に保管すること。でないと絶対反対。

•企業の利益だけでなく、住民にとってのメリットとデメリットを明確にして欲しい。

•JFEの努力も一定の評価をするが、これ以上資産価値を下げる事業には反対である。

•千葉市は県庁所在地であり中央区はその中心である。生活者・特に児童も多く設置する場所としては非常識であり、到底常識的には理解できない。

•事前説明より実際に稼働してから問題が表面化したのでは、手遅れであり反対する。

•健康面での心配、マンションの資産価値をこれ以上下げたくない。

•説明書に記載されている「環境負荷を可能な限り低減する」とか「廃棄物や副産物を可能な限り有効利用する」とか、それがどの程度なのか理解できない。

•千葉市民対象に、広く説明会を開催し、住民の意見を聞いて頂きたい。

•粉塵や臭いがひどい時は、喘息の発作がおき、粉塵が飛散した床を素足で歩くとアレルギーをおこし、足の裏もひどいことになっている。これ以上は、我慢できない。

 

石炭火力発電所の建設問題を考える住民グループが東京湾の各地で次々と発足 連携へ

現在、住民たちはただ黙って建設が進むのを待つのではなく積極的に行動をはじめている。

袖ケ浦では、長年地元で市民活動を行ってきた袖ケ浦の市民が望む政策研究会が中心となり、環境アセスメントの事業者説明会などをウォッチし、地域でセミナーを開催し、問題を発信し続けてきた。3月には女性たちが中心になって集会を開催。今後、アセスメントの準備書に向けてアクションをしていく予定だ。

市原では、石炭火力を考える市原の会が昨年発足。市原での石炭火力発電所建設計画が中止となり、継続するかどうかグループ内で議論されたが、隣接する袖ケ浦や千葉の石炭計画の問題もあるため、市原の会も近隣のグループと引き続き共闘していくことが確認された。

千葉では、千葉市在住の女性たちが中心となって蘇我石炭火力発電所計画を考える会が今年発足し、地域でのセミナーをこれまで複数回開催している。問題をわかりやすく一般の人たちに伝えるためのチラシもつくって、街頭で配布するなど活発なアクションが展開されている。また千葉では、かつて工業地帯からの排ガスによって喘息などを患った公害患者が中心となって結成されたあおぞらの会も石炭発電所への反対を強く表明。地域でセミナーを開催し、今後行政や事業者と交渉する予定だ。

横須賀では、昨秋から三浦半島のまちづくり研究会が石炭火力発電所の計画についてのセミナーを開催し、参加した住民が中心になって数回の石炭問題を扱う集会を開催。今年4月になって横須賀石炭火力発電所建設について考える会が発足した。

これらの会は、東京湾岸の石炭計画について国や事業者に要望を出すなど連帯を強めるために連絡会として石炭火力を考える東京湾の会(略称:東京湾の会)を発足した。

東日本大震災以降、東京電力管内も電力需要が下がってきている。今のような過剰な計画が進めば将来ビジネスとしても破綻するのは明らかだ。それを見越して一番に市原の計画中止を判断した東燃ゼネラルは先見の明があったと言える。他の計画も中止になるよう、住民は今後も力強く連携したアクションをとっていくだろう。