【ニュース】脱炭素燃料とは言えないアンモニアの利活用を推し進める日本


日本は、国内外における燃料アンモニアの活用に向けて着実に体制を整えています。
JERAをはじめとした電力各社は石炭火力とアンモニアの混焼実験に着手しており、プラントメーカーはアンモニアの混焼・専焼のバーナなどの開発、そのほかの事業者も港湾などを含めたインフラ整備を進めています。しかし、石炭火力に燃料としてアンモニアを混焼することは脱炭素と言えないばかりか、山積した課題の解決にはなりません。

アンモニア混焼の問題

●CO2削減効果がない
石炭火力発電所における石炭の使用量を減らすためにアンモニアを20%混焼しても、化石燃料由来のグレーアンモニアを混焼したところで、わずか1%程度の削減効果しかない。

●コストが高い
アンモニアは化石燃料を合成して製造するので、石炭よりも高額になる。

●海外からの輸入・国富流出
現在でもアンモニアは化学薬品や肥料の製造に使用されているが、発電燃料として使うとなれば大量に必要となる。国内での製造では賄えないので、国外からの輸入に頼ることになる。結果、国外からの輸入に依存している現状と変わらず、エネルギーセキュリティにおける問題は継続することとなる。

●開発途上の技術ー実用化にはまだ時間を要する
アンモニア混焼の実証試験が行われているが、実用化には至っておらず、大型石炭火力発電所での実用化には時間を要する。2030年に技術的に20%混焼が可能になったとしても、100基を超える国内の既存の石炭火力発電所のうち、何基で混焼が実現するのかは、具体的な計画が示されていない。気候変動対策として全く間に合わない。

アンモニア混焼のコスト

ここでは、中でもコストの面に焦点を当てて政策の問題を指摘しておきます。
既存の石炭火力へのアンモニアの混焼は、アンモニアがグリーンかグレーかにかかわらず、化石燃料に比べてコストが高くなります。政府はこの価格差を補填する政策を2024年に成立した水素社会推進法に盛り込みました。

この価格差補填は、基準価格と参照価格をプロジェクトごと個別に決定し、その価格差の全部または一部を15年間にわたって支援する仕組みとなっています。

基準価格 (水素やアンモニアの価格):国内への水素・アンモニアの供給分に係る単位量当たりの水素等の製造・供給に要するコストと利益を回収できるように、事業者が事前に基準価格の算定式もしくは固定値として提示する。
参照価格 (化石燃料の価格):代替される原燃料の日本着の価格として一般的に公表されている参照可能な指標を基本とする。

出典:価格差に着目した支援における他の関連制度との重複整理の基本的な考え方(水素社会推進法の検討における中間とりまとめより)

この仕組みでは、事業者側の言い値で水素・アンモニアなどの「脱炭素火力」「ゼロエミッション火力」の開発・普及、火力の維持にかかる費用が計上されることになり、その「差額」を政府が補填することになります。現在、世界では再生可能エネルギーの価格が着実に下がっており、化石燃料による発電コストを下回るところも出てきています。日本が、独自論法と技術に固執し、化石燃料を使い続けることで、再生可能エネルギーへのシフトを遅らせるばかりか、消費者の電気代が見かけ上抑えられたとしても、めぐりめぐって国民負担は莫大になることになります。

今、旧式石炭火力などをアンモニア混焼もしくは将来的な専焼に向けて設備の改変またはリプレ―スをする動きが出ています。JERAは愛知県の碧南石炭火力発電所5号機で、九州電力は長崎県の松浦発電所2号機でアンモニア混焼試験を実施しており、日本各地で実証実験が進められています。ガス火力への水素混焼実験も同様です。

先日、自動車製造メーカーのマツダは、広島県の自社工場内にある石炭火力発電設備の燃料を「アンモニア専焼」に置き換えるとして、環境影響評価実施計画を提出しています。こうした動きが今後も拡大していくことが見越されます。

居住区域にある石炭火力発電所が段階的に閉鎖されるか、混焼に向けた変更対象になってくるか、動向には注意する必要があります。

アンモニア混焼の環境アセスメント

【意見書】アンモニア活用火力発電所整備事業 環境影響評価実施計画書への意見提出(リンク

アンモニア混焼に関する参考情報

JBC:【ファクトシート】水素・アンモニア燃料 ─解決策にならない選択肢(リンク

自然エネルギー財団:なぜ石炭火力アンモニア混焼への投資が1.5℃に整合しないのか(リンク
WWF:アンモニアは真の解決策に繋がるか?一長一短を知ってエネルギーを選ぼう[FREA後編](リンク
FoE:【プレスリリース】エネルギー移行の脅威となるアンモニア混焼、水素を推進する日比協力に環境団体が警鐘(リンク
JBC:【レポート】E3Gがアンモニア混焼の問題を指摘するレポートを発表(リンク

E3G:【解説】石炭火力発電におけるアンモニア混焼は、欠陥のあるアプローチだと言える理由(リンク
Bloomberg:日本のアンモニア・石炭混焼の戦略におけるコスト課題(リンク