自然エネルギー財団が、「エネルギー基本計画の論点」シリーズのコラム『日本の「ゼロエミッション火力」からの排出を考える』を公開したので、概要を紹介します。
現在、日本政府は脱炭素燃料としてのアンモニア・水素の活用を進めるための準備を粛々と進めており、2024年5月に水素社会推進法1を成立させたのもそのひとつです。政府方針のもと、大手電力事業者は「ゼロエミッション(ゼロエミ)火力」と称する石炭火力発電へのアンモニア混焼を脱炭素ロードマップに掲げ、実証実験やタービンの開発、サプライチェーンの確保にまい進していますが、日本のアンモニア混焼は、はたして国際社会で考えられている「排出削減対策済み」の石炭火力と言えるのでしょうか。
本コラムは、日本政府の示す水素等燃料(アンモニアを含む)の炭素集約度基準について、石炭火力のアンモニア混焼事業を例として説明したものです。自然エネルギー財団は、日本政府が示す基準の算定範囲に長距離輸入プロセスに伴う排出だけでなく、アンモニアについては上流部分の排出も含まれていないのではないかと指摘しています。
経産省が提示した基準のアンモニアの混焼では、20%混焼でも従来の石炭火力発電の約88%の排出が残り、50%混焼でも約69%、アンモニア100%(専焼)でも38%の排出が残ることになります。しかも、この比較でも輸送工程における排出量は含まれていません。電力事業者が考慮すべき低炭素水素の排出基準値に基づき石炭火力へのアンモニア混焼、またはアンモニア専焼による排出量を算定した結果、その排出量は「対策済」とは言えないレベルであったことが示されています。これは、日本の炭素集約度基準が、国際的に「対策済み」と認識されるとは言い難いことを意味しています。また、グレーであれブルーであれ、どのような素性のアンモニアを使うとしても、天然ガスなどの燃料採掘を含む上流工程および輸送工程でGHGが排出されます。燃料を輸入に頼る状況が続くだけでなく、石炭よりも相当に高価な燃料となるのは明らかです。しかも、石炭よりも高価になることが明らかな燃料アンモニアを利用する際の価格差は政府によって補填2されることになっているので、発電における燃料アンモニアの利用拡大は、エネルギー安全保障に寄与しないばかりか、税金が価格差支援に費やされる可能性が高いことも述べています。
2024年6月にイタリア南部プーリア州で開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)の合意文書(コミュニケ)には、二酸化炭素(CO2)排出削減対策が講じられていない(Unabated)石炭火力発電を2030年代前半に段階的に廃止することが記されています。日本が、アンモニア混焼は対策済、つまり排出削減対策が講じられていると主張しても、世界的なカーボンニュートラル目標とは相いれないのが現状です。
日本政府は、国内で「ゼロエミ火力」を推進するだけでなく、関連する技術をアジア圏に売り込む戦略も進めています。「ゼロエミ火力」を語る際には、「ゼロエミではない部分」からの排出量にも注目しなければなりません。
自然エネルギー財団
日本の「ゼロエミッション火力」からの排出を考える
提示された水素・アンモニア低炭素基準では「対策済み」石炭火力にならず(リンク)
参考
気候ネットワーク:【ポジションペーパー】アベイトメント・排出削減対策とは(リンク)
- 正式名称は「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律案」2024年5月24日に施行された。<https://laws.e-gov.go.jp/law/506AC0000000037> ↩︎
- アンモニア、合成メタンなどと石炭のような従来の燃料との価格差を補填して、普及を後押しする法制度 ↩︎