脱石炭への大きなシグナル:OECDの石炭技術輸出規制への合意と「パリ協定」


昨2015年末は、これからの世界の石炭政策の方針に大きな影響を与える重大な決定が立て続けになされました。

OECD輸出規制への合意

1つは、11月17日、経済協力開発機構(OECD)の輸出信用・信用保証部会が石炭火力の発電設備の輸出を規制する方針に合意したことです。合意内容は、低効率(亜臨界・超臨界)で中小規模の石炭火力発電技術の輸出を規制するもので、石炭火力発電技術の一切を規制するものではないため、小さな一歩にしかすぎません。しかし、この議題は1年以上議論されながら、日本や韓国、オーストラリアなどの一部の国だけが反対して先送りされてきました。日本政府もいかなる規制にも反対という立場を取り続けていましたが、石炭推進への国内外の批判やCOP21パリ会議前の機運が高まる中で、合意を妨害することはもはやできなくなっていたのでしょう。今回、限定的とはいえ石炭火力発電の規制にOECDとして踏み込んだことは重要なことです。気候変動の共通の目標に向け、2021年に更には合意内容を強化することも決定しているので、規制が今後一層強化されるのは確実です。

今回の規制の概要は以下の通りで、2017年1月より適用されます(環境影響評価など手続きがすべて終了している場合は除く)。OECD輸出信用アレンジメントの規制には、以下の通り、返済・償還期間が設定されました。

表. OECDで合意された石炭火力発電設備ごとの最長返済・償還期間

発電設備の規模(総設備容量) 50万kW以上 30-50万kW 30万kW未満
超々臨界圧(蒸気圧力24.0MPa以上、蒸気温度593℃以上)、または排出量750gCO2/kWh以下 12年間*1 12年間*1 12年間*1
超臨界(蒸気圧力22.1MPa以上、蒸気温度550℃以上)、または排出量750-850g CO2/kWh 対象外 10年、ただしIDA(訳注)の借入国のみ*1,2,3 10年、ただしIDA(訳注)の借入国のみ*1,2,3
亜臨界(蒸気圧力22.1MPa未満)、または排出量850g CO2/kWh以上 対象外 対象外 10年、ただしIDA(訳注)の借入国のみ*1,3

*1  公的支援が適切であれば、例外的に最長返済・償還期間を2年間延長できる場合もある。
*2  エネルギー貧困に対応するため、輸出信用申請書を受領した時点で当該国の電化率が90%以下の場合、10年間の輸出信用支援を行うことができる。
*3  代替手段がなく、物理的・地理的に隔離され、既存のグリッド環境において提案事業が最良の導入可能技術であると判断された場合には、IDA借入国以外の国々にも輸出信用支援を行うことができる。

(訳注) 国際開発協会(IDA)は、世界銀行の低開発途上国向けの支援基金。IDAによる輸出信用を受ける申請手続きを完了するとIDA適格国となり、ここにはIDA融資のみの適格国(IDA-only国)と混合融資適格国(ブレンド国)が含まれる。

パリ協定の採択

石炭火力の推進に歯止めをかけるもう1つの大きな国際合意が、12月のCOP21パリ会議による「パリ協定」の採択です。

重要なのは、気候変動を防ぐための明確な長期目標に合意したことです。「2度よりはるかに低い水準に気温上昇を抑制し、さらに1.5度に抑制することも目指す」とした合意は、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の科学に照らすと、2100年には温室効果ガス排出量をほぼゼロないしマイナスにすることが必要な水準であることがわかります。さらに、「可能な限り早く世界の排出量のピークを迎えその後速やかに削減していく」ことと、「今世紀下半期には人為的な排出と人為的な吸収を均衡させる」という排出削減の中長期目標は、化石燃料からの排出はほぼゼロにすることに向かって行動を引き上げていくことを約束したことに他なりません。当然、世界の排出を頭打ちにし、排出ゼロに向けて削減していくためには、新規の石炭火力の建設は国内でも国際でも直ちに見直さなければなりませんし、既存の火力発電の早期停止も視野に入れた政策が必要になります。

「パリ協定」に合意した日本は、これに整合しない石炭推進政策を見直すという自らの実施を通じて、温室効果ガス排出を削減する発電方法に切り替える必要に迫られています。