E3G報告書「石炭スコアカード2017年」発表:
アメリカが直面する現実
英国のシンクタンクE3Gによる、先進7か国(G7)の石炭に関する政策を評価するスコアカード2017年版をご紹介します。今回2017年版の発表(2017年5月)は、2015年10月の気候変動枠組気候変動枠組条約ボン会議の特別作業部会開催時に合わせた初回、2016年5月の第2回目の発表に続く第3回目となっています。
G7各国における石炭からの投融資撤退への流れは過去12カ月も変わらず
第2回以降、12カ月間での変化を調査した結果、トランプ政権の方針転換にも関わらず脱石炭に向かう動きは衰えていないことが見えてきました。それどころか、国や地域、地方行政による政策的な所信表明が続いています。カナダ、フランス、英国、アルバータ州(カナダ)、ニューヨーク州(米)、オレゴン州(米)、ベルリン市(ドイツ)などの政府が石炭火力発電所の段階的な撤廃を確実に行うための政策を導入しています。イタリアも現在同様の政策を新しい国のエネルギー計画に盛り込もうと検討を行っています。
今回の調査でも、脱石炭の傾向は明らかとなりました。
- 新規計画の石炭火力発電所のうち新たに7ギガワット(WG)が中止となり、2010年からの累積では76GWに達した。日本はG7諸国で唯一、いまだに新規石炭火力発電所に投資している国であるが、それでも計2.2GWの新規計画が初めて中止となった。
- G7全体では、2010年以降、発電容量にして107GWの石炭火力発電所が閉鎖されている。G7各国では、電力部門の構造的な動きとして優先される石炭火力発電所の廃炉が日本をはるかにしのぐ速さで進められている。
- 既存の発電所の25GWの閉鎖が計画予定に追加され、合計は84GWに達する。54GW分の石炭火力発電所の閉鎖日は既に公表されており、残り30GWも政治的判断の結果、閉鎖が決まっている。
この脱石炭の傾向は、G7諸国における国内政策の策定の根幹となり、石炭火力発電所の段階的廃止を促進するでしょう。さらに、このような政策への取り組みは国際的な脱石炭の動きへの追い風になると考えられます。
トランプ政権は、国際的な流れに逆行する石炭推進の動きを作り出そうとしていますが、国際社会の動きに反するばかりでなく、米国国内の電力部門で進行しているエネルギーシフトとも相反するものです。今回、G7諸国の石炭スコアカード・ランキングを更新するにあたり、前回同様に、各国の市場動向および政府政策の状況を見直し、石炭に関するパフォーマンスの比較評価を行いました。評価のポイントは (1)新規の石炭火力発電所のリスク、(2)新設計画や既存設備の閉鎖、(3)国際的な影響(途上国など国外の石炭火力への資金援助)です。
前回の報告書発表(2016年5月)以降に見られた変化は以下となっています。
- 米国がトランプ政権の方針転換の影響で昨年1位から4位に転落。
- トランプ政権の石炭推進政策がこのまま続けば、脱石炭への動きを維持するのとは逆行するリスクが増大する。年金基金やヘルスケア、地域経済復興に関する政策の変更は、石炭に依存する地域の労働者や地域経済に悪影響を与えると予測される。
- トランプ政権が石炭推進政策に関する多くの提言を表明したものの、実行には時間を要することから、最悪のパフォーマンスとの評価には至らなかった。
- G7諸国内の評価は4位に脱落したが、国内市場では石炭からの撤退に向けた動きが継続されており、各州による個別の取り組みも増加している。
- カナダとフランスが国内の脱石炭を進めたことから、英国は昨年2位の座を譲ることとなったが、これら3カ国とも国際的な脱石炭の動きにおいて前進が見られた。
- イタリアは石炭からの段階的撤退政策を検討しており、ドイツはベルリン市が脱石炭政策を実行し始めたことから、両国ともに過去12カ月の間に進展が見られた。
- 日本のスコアに変化はなく、批判を受けているにも関わらず、G7諸国の中で唯一新たな石炭火力発電所を建設する国として最下位に留まっている。
この2017年の結果を踏まえた将来展望として、E3Gが注目している点は以下になります。
- トランプ政権の石炭推進政策に関わらず、G7諸国は脱石炭に向けた政策を継続していく。そのために、G7諸国はOECD諸国と連携し、電力部門の政策におけるペストプラクティスを共有し、影響を受ける地域や労働者にとっても公正な政策転換となるような道を探ることができる。
- 国際的には、G7諸国は石炭火力発電所への公的資金の投入を制限していく。アジアインフラ投資銀行(AIIB)に加盟しているカナダ、フランス、ドイツ、イタリア、英国は、いまだに続く石炭への投融資に効果的な制限を設けるように中国と協力していくことが望まれる。
- トランプ政権の石炭推進政策が、日本のクリーンコール・テクノロジーの輸出を後押しするとともに、石炭需要を確保したい他の国々の石炭政策を奨励することは疑う余地がない。しかし、その他の国々は米国が内在する構造的傾向の出方に厳しい目を向けている。実際、政治的な美辞麗句に捕らわれるより、電力部門における石炭からのシフトの現実性を注視する方が理に適っている。
- 今後2年はカナダとフランスがG7諸国をリードすることになる。両国の首相は、国内の石炭火力発電所を段階的に廃止することを表明しており、G7の役割を活かして国際的にも影響をおよぼす方法を模索しているだろう。
参考リンク:
2017年レポート:G7 Coal Scorecard 2017: Rhetoric Vs. Reality in the USA(サイトリンク)
G7 Coal Scorecard 2017: Rhetoric Vs. Reality in the USA(英語PDF)
2016年レポート:UK and US coal shifts shame Japan – New E3G analyses(サイトリンク)
*このページの右側の関連文書リスト(Related Document)にJapaneseと書かれているものは日本語でご覧いただけます。