ドイツの環境NGOが石炭事業に関与する企業のリスト
『Top 120 Coal Plant Developers List』(https://coalexit.org/)を更新
公開日時:2018年10月4日 9:00 CEST
670GW(670,000MW)を超える新規石炭火力発電所の建設計画が1.5℃目標を脅かす
NGOらが世界の石炭火力発電事業者のリストを更新
2018年10月4日、ドイツの環境NGOのウルゲバルト(Urgewald)が、IPCC会合の開催4日前のタイミングで、石炭火力発電所の建設に関与する企業のデータベース『Top 120 Coal Plant Developers List』の更新版を発表しました。このCoal Plant Developers List(CPDL)は、2017年に発表され、今回、変化する石炭火力発電所の建設計画を把握し、銀行および機関投資家に役立ててもらえるよう更新されました。
2017年は、再生可能エネルギーの利用が大きく拡大しましたが、その中にあっても世界で多くの石炭火力発電所の建設が進められてきました。現在、59ヶ国において1,380基もの新規の石炭火力発電所が計画あるいは開発途中にあり、これらの計画が全て実現すると、その発電容量は672,124MWに上り、世界の石炭火力発電容量を33%増加させることになります。この動きを阻止すべく、ウルゲバルトと28のNGOが協力し、世界の新規石炭火力発電に関与する上位120社の企業名と計画(計画全体の68%をカバー)を発表しました。
CPDLは、石炭関連事業に従事する700社以上の企業を網羅したより詳細なデータベースGlobal Coal Exit List(脱石炭リスト)*を元に作成されています。新規石炭火力発電所計画の情報については、コール・スワーム(Coal Swarm)のGlobal Coal Plant Trackerが参照されています。
*石炭事業に関与する企業のデータベース『Global Coal Exit List(脱石炭リスト)』の概要
【日本の状況】
日本は世界第6位の石炭火力発電大国であり、先進国としては最大の石炭火力発電所建設計画を有する国です。日本のエネルギー基本計画には、2030年に石炭火力発電を26%にすると示されていますが、パリ協定の目標を達成するために、日本は2030年までにすべての石炭火力を段階的に閉鎖していかなければならないにもかかわらず、国内外で石炭火力発電所の建設を進めています。特に、国外での建設規模が全体の計画に占める割合は59%と突出しており、日本企業および日本の金融機関による発展途上国における石炭火力への資金提供は、中国に次いで第2位となっています。
【掲載された日本企業】
CPDLに含まれた日本企業のうち、最も計画規模の大きい企業はJ-Powerで、その計画規模(割当分)は6,543MW、2位は丸紅で2,670MWでした。他にも中部電力、中国電力、東京電力、九州電力が含まれています。うち丸紅は、先日、脱石炭に向けた方針を発表したものの、例外規定など抜け穴が見られるため、NGOからは依然方針の強化の必要性が指摘されています。世界各地で建設を予定している5,812MWの計画への影響もわかっていません。他の企業については、これまで何の脱石炭に向けた方針表明は出されていない状況です。特にJ-Powerは、インドネシアのバタン石炭火力発電事業(合計出力2,000MW)や日本の西沖の山発電所(仮)(合計出力1,200 MW)などの新規計画に出資しているほか、ベトナムのズンクワット経済地区で大型石炭火力発電事業(合計出力4,400MW)を推進する見込みであると報道されるなど、さまざまな石炭火力発電事業に関わっているため、脱石炭に向けた早期の方針表明が期待されます。
【その他の要点】
世界最大の石炭火力発電事業者は、昨年、中国政府の政策による事業統合で設立された国家能源投資集団(National Energy Investment Group; NEI)で、その計画規模(割当分)は37,837MW。2位は中国の中国華電集団公司(China Huadian Corporation; CHD)で25,097MW。3位はインドの国営火力発電公社(National Thermal Power Corporation; NTPC)で、25,056MWとなっていました。この3社は、大規模な既設の石炭火力発電所の運営も行っています。世界の石炭火力発電事業者上位120社のうち28%は、いまのところ新たな発電所の建設を行っていませんが、それ以外の事業者によって新たな発電所の建設が、ベトナム、パナマ、ボツワナなど世界各地で進められています。
石炭火力発電所の建設同様、多くの国で石炭の発掘が行われています。CPDL掲載の120社のうち46社は石炭の生産も行っており、タンザニアやモザンビーク、ボツワナといった「開拓国」に発電所を建設することが、企業が炭鉱開発を進める理由になっています。
新規の石炭発電所建設計画がある59ヶ国のうち、11ヶ国の石炭発電容量は600MWまたは600MW以下しかなく、16ヶ国にはまったく石炭火力発電所が存在していない状況です。パリ協定の採択から2年半、途上国などが新規石炭火力発電所の建設地として狙われており、建設された場合、何十年もの間、石炭に依存することになる状況に陥ることが懸念されています。
このリストに掲載された上位120社の本社は42ヶ国に点在していますが、国別に見ると、中国の事業者数が突出しています。中国は、世界最大の太陽光および風力発電の生産国でもありますが、石炭発電所の建設計画規模でも群を抜いており、世界の計画の3分の1以上に該当する、259,624MW規模の計画を有しています。中国企業は国外での新規発電所建設にも大きく加担しており、現在、17ヶ国で59,619MWの発電事業計画が進められています。これは、中国企業が進める建設計画の約19%に該当します。しかし、国外への割合で見ると日本企業が59%(新規石炭火力発電所37,044MWのうちの21,930MW)と中国を抜いて世界最大となっています。
CPDLは、ファイナンスにおいても重要な意味を持っています。金融機関や機関投資家にとって、気候変動に関与する企業に投融資することはパリ協定への道の妨げとなるからです。ここ数年の間には、AllianzやAXA、Generaliといった欧州の大手機関投資家が世界の石炭火力発電所への投融資を規制する方針を表明するようになってきました。国際的な大手銀行や機関投資家が、この動きに追随すべくウルゲバルトのリストを参照しています。
2016年以降、再生可能エネルギーのコストが急激に低下したことにより、新規の石炭火力発電所の計画は減少しています。しかし一方で、2015年12月にパリ協定が採択された後にも92,000MW相当の石炭火力発電所が世界中に建設されています。
リンク
2018年版 『Top 120 Coal Plant Developers List』リンク
ダウンロードはこちらから
Press Release: Over 670,000 MW of New Coal Threaten 1.5°C Climate Target
NGOs Release List of World’s Top Coal Plant Developers(英語PDF)
Report: Regional Briefings for the 2018 Coal Plant Developers List (英語PDF)
プレスリリース:ドイツの環境NGOが石炭事業に関与する企業のリスト『Top 120 Coal Plant Developers List』(https://coalexit.org/)を更新(日本語PDF)
問い合わせ先
●ウルゲバルトの問い合わせ先
Moritz Schroeder(Urgewald’s Communications Director )moritz@urgewald.org
●日本語での問い合わせ先
平田仁子(気候ネットワーク)khirata@kikonet.org
田辺有輝(「環境・持続社会」研究センター(JACSES))tanabe@jacses.org