愛媛県西条市では、四国電力による石炭火力の増強計画(西条発電所1号機リプレース計画)の環境アセスメントが着々と進んでいます。しかし、この計画について地元住民にほとんど知られずに進んでいるのです。
本計画は、以下のとおり発電所1号機の出力を現状の15.6万kWから3倍以上の50万kWに増強する計画です。CO2の排出量は年間で246万トンと非常に大規模で、新たに作ることはパリ協定にも逆行する計画です。
■計画概要
名称 | 西条発電所1号機リプレース計画 |
所在地 | 愛媛県西条市喜多川853 他 |
原動力の種類 | 汽力:超々臨界圧(USC) |
燃料 | 石炭 |
出力 | 50万kW |
工事開始時期(予定) | 2019年3月~ |
運転開始時期(予定) | 2023年3月~ |
出典:西条発電所1号機リプレース計画 環境影響評価準備書のあらまし p2
環境影響評価のプロセスで明らかになった問題点
本計画の環境影響評価手続きは現在「準備書」の段階にあります。2018年4月18日に四国電力による住民説明会、6月4日および8月28日に愛媛県の審査会が開催されました。4月の事業者説明会への地元住民の参加者はほとんどなく、地域にリプレース計画が浸透していないことが明らかになりました。
また、このプロセスを通じて事業者側から示されたコメントなどから、改めて以下の点が問題として浮かび上がりました。
① CO2の大量排出の相殺は「伊方原発3号機」の稼働
本計画は、「電気事業者低炭素協議会の2030年度CO2排出目標は1kWあたり0.37kgであり、同0.78kgである新1号機の稼働によってその達成が危ぶまれる」と指摘されています。これに対し事業者は、「伊方原発3号機」の再稼働を前提とすることを明言しています。西条火力発電所の石炭火力からの非常に高い温室効果ガスの排出係数は原発で相殺するというのです。石炭が「原発」との両輪で動かすつもりであることが明らかになりました。
②海水温の上昇による生態系への影響について
愛媛県審査会では「海水温の上昇による生態系への影響の評価が不十分」との意見が出ていますが、これに対して事業者は「海域生態系の評価は十分な評価手法がなく、国の手引きでも項目設定されていないため評価を行っていない」と回答しています。個別の種ごとに予測し、影響を評価したとの主張がありましたが、準備書を見る限り十分な評価とは到底言えない内容です。放水口の配置などについて、案の策定時から漁業関係者との調整を進め、最終的に合意を得ているそうですが、漁業を含め生態系への影響が将来的に現れないことの根拠は不十分です。
なぜ「石炭」なのか?の議論なし
事業者の説明では、なぜ「石炭なのか」の説明がありません。本計画は超々臨界圧(USC)を採用していますが、LNGと比較して2倍程度のCO2を排出します。大気汚染物質の排出も多く、環境の観点からは当然最悪の選択です。
四国電力は同社の他の経年火力の代替としての役割を考慮し、出力規模の増強をすることを根拠に挙げていますが、近年の自然エネルギーの普及や省エネの進行を考慮すれば、近い将来、石炭火力を必要とせずとも電力需要をまかなえる可能性は十分に考えられます。とりわけ四国電力エリアでは自然エネルギーの普及が進んでおり、供給割合がピーク時(2018年5月20日10時~12時)に最大100%以上に達したことがありました。夜間の自然エネルギーの割合の低さや需給調整の難しさが課題としてあるものの、会社間連系線の活用や揚水発電の利用の拡大によって解決できる可能性は十分にあります。石炭火力発電所は一度建設されてしまうと30~40年稼働することになります。自然エネルギー中心の社会に切り替えるためにも、石炭火力の新設・増設は決して容認できるものではありません。
四国では「自然エネルギー100%」をどこよりも早く達成してほしい
10月8日にIPCCが特別報告書「1.5℃の地球温暖化」を公表しました。これによると、オーバーシュート(いったんある値を超えてからその値以下に戻ること)なしに、地球温暖化を1.5℃に抑えるためには、世界のCO2排出量が、2010年比で2030年までに約45%減少し、2050年頃には実質ゼロに至ることが必要であるとしています。石炭火力の新設・増強を取りやめることはもちろん、既設の石炭火力についても早急に稼働を停止しなければこの目標は達成できません。
四国電力エリアは東京電力など他の電力エリアと比べても電力需要が少なく、自然エネルギーを活用できるポテンシャルも十分にあります。四国電力が他の電力会社に先駆けて野心的なエネルギー政策を取ることを期待しています。