3月13日、気候ネットワークは、みずほフィナンシャルグループ(以下、「みずほFG」)の株主として気候変動に関する株主提案を提出しました。気候変動への対策を企業に求める株主提案は、国内で初めてです。具体的には、みずほFGが賛同する気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に従って、パリ協定の気候目標に整合した投資を行うための経営戦略の計画を開示するよう求めたものでした。この株主行動は、英国ロイター通信や日本経済新聞で報道されたほか、海外の機関投資家も支持を表明するなど反響を呼んでいます。
何故みずほFGに株主提案?
みずほFG はTCFDに賛同しているばかりでなく、2019年9月に発足した国連責任銀行原則(PRB:Principles for Responsible Banking)国連責任にも署名していますが、化石燃料に関連するプロジェクトに多額の融資および引受を行うなど、その経営実態は気候リスクを考慮しているとは言い難い状況です。特に石炭に関しては、石炭関連産業に関係する世界的な金融機関をまとめた2019年12月のレポート「Global Coal Exit List(脱石炭リスト)において、石炭火力発電を拡大している企業に対する世界最大の貸付を行っている機関と指摘されており、その貸付(全額)は2017年から2019年までに168億米ドルに及びます。近年、海外の金融機関は相次いで脱石炭方針を表明している中で、邦銀は出遅れている状況です。
みずほFGの方針とその改定された内容
2019年5月に公表されたみずほFGの石炭方針は、融資は超々臨界圧発電方式(USC)を採用している石炭火力発電事業に限定するというものでしたが、例外規定を設けることで実際には世界中でほぼ全て(USC以外も含めて)の石炭火力発電事業に資金提供が可能であることを複数の環境NGOが指摘していました。みずほFGがこの方針に基づいて国内外の石炭火力発電事業への投融資を行っていることを踏まえ、気候ネットワークは「パリ協定の目標に沿った投資のための経営戦略を記載した計画を開示する」という条項を定款に規定するよう株主提案で求めたのです。
みずほFGは2020年4月15日、新たな方針「サステナビリティへの取り組み強化について」を発表し、「気候変動が 金融市場の安定にも影響を及ぼしうる最も重要なグローバル課題の一つであるとの認識」のもと、石炭火力への投融資方針の厳格化に踏み出しました。新方針では、気候変動への対応を経営戦略における重要課題として位置づけ、石炭火力発電所への新規建設を資金使途とする投融資等は行なわないこと、さらに、石炭火力発電所向け与信残高削減目標として 2030 年度までに 2019 年度比 50%に削減し、2050 年度までに残高ゼロとすることを打ち出しています。3メガバンクの中では新規融資の停止や残高ゼロの期限を明確に打ち出したことで一歩先んじた形となりますが、それでもパリ協定の目標到達には不十分であることは否めません。しかも、石炭火力発電事業への投融資を見合わせる意向を示すだけでなく、化石燃料全体の投融資方針を見直したり、化石燃料に依存する企業からの投資撤退を表明している海外の銀行には依然遅れをとっている状況です。
世界中で広がる金融機関の脱石炭方針
欧米の金融機関、保険会社といった機関投資家に続いて、アジアの金融機関にも石炭火力発電事業への投融資廃止を目指す方針を公表するし動きが広がっています。2019年4月にはシンガポールのDBS銀行、オーバーシー・チャイニーズ銀行(OCBC)、ユナイテッド・オーバーシーズ銀行(UOB)といったアジアの銀行も石炭火力発電事業への支援を中止すると発表しています。
投資におけるESGの重要性が高まっていることを背景に、欧米では機関投資家がNGO/NPOと連携する流れが出来つつあります。既に気候リスクは財務リスクとして認識されているのです。いまだに石炭火力に資金提供を行っている、あるいは資金提供する余地を残した方針を掲げている日本のメガバンクは、このような世界的な脱石炭の潮流から大きく外れており、財務リスクに加えて世界における評判リスクにも晒されていると言えます。
世界の投資家が日本のメガバンクの動きに注目
気候変動対策は世界的な急務であり、投資家は、脱炭素社会への動きにおいて大きな役割を担う金融機関に厳しい目を向けています。そして、石油会社のように化石燃料の扱いが事業に占める割合の大きな企業からの投資を引き上げている投資家もいます。
みずほFGがパリ協定と整合するように経営方針を強化し、TCFDの提言に準じて経営戦略を記載した計画を開示するようになれば、投資家は同社が抱える気候リスク・財務リスクを適切に評価し、投資判断することができるようになります。気候ネットワークの株主提案は、世界的な投資家からも賛同を得られる内容であり、海外のみずほFGの大口株主の中からは気候ネットワークの株主提案への支持を表明する動きが出てきています。気候ネットワークは、みずほFGの新方針を評価した後、その内容が石炭火力発電に対するプロジェクトファイナンスにしか言及していないこと、方針に書かれた目標がパリ協定に整合していないことを理由として、株主提案を継続すると表明しています。
邦銀はますます、気候変動対策への取り組みについて、気候変動問題を重視するESG投資家による厳しい評価と圧力に向き合わなければならないでしょう。
株主提案情報
【プレスリリース】みずほフィナンシャルグループの株主として 日本初の気候変動に関する株主提案を提出(2020年3月16日)
新方針に対する声明
石炭火力への投融資方針厳格化を歓迎、ただし更なる強化が必要 ~みずほFG新方針に対する声明~(4月15日)
株主提案継続
【プレスリリース】気候ネットワーク、みずほFGへの株主提案の継続を決定(2020年5月1日)
株主提案反対を受けての所信表明
【プレスリリース】気候ネットワーク みずほフィナンシャルグループの気候変動新ポリシーへの株主提案を堅持(2020年5月22日)
参考報道
みずほの石炭融資に複数投資家が反対、環境団体の株主提案を支持[ロイター4/3]
環境関連の計画、みずほに開示を要求 株主のNPO法人[日本経済新聞3/16]
脱・石炭 金融の針路(上) みずほ「残高ゼロ」の波紋 発電所融資停止、三井住友FGも 国際世論の波なお高く[日本経済新聞4/24]